ひそやかな復讐

こんにちは、平です。

以前、50代の奥さまのカウンセリングを定期的に行ったことがありました。

その中で、まったくご主人のお話が出てこなかったので、私はてっきり、その方はバツイチか、もしくは、結婚されたことがないのかと思っておりました。

ところが、よくよくお話を聞いていくと、じつは20数年の結婚生活があり、お子さまはないものの、れっきとしたご主人がいらっしゃるということがわかってきたのです。

私はこの奥さまについて、「つねづね、もっともっと人生を楽しまれたらいいのに‥‥」と感じていました。

ご夫婦はともに働いていて、子育てにお金がかかるわけでもなかったのに、彼女はなぜか、とても質素に暮らしていらっしゃるようだったからです。別段、質素が悪いというわけではありません。ただ、なにか、引っかかるものがあったのです。

そこで、ご夫婦のことを聞いてみると、お二人は情熱的な恋愛結婚によって結ばれたということでした。しかし、結婚5年目に、ご主人の浮気が発覚。

そのころの奥さまはというと、結婚後5年たっても子どもに恵まれないことを、とても気に病んでいたそうです。

一方、ご主人は、さほど気にしてはいらっしゃらない様子だったとか。

奥さまを気づかってか、根っからの明るい性格のゆえかはわかりませんが、「いいじゃないか。こればっかりは、神様の采配なのだから。できないならできないで、二人で人生を楽しもう」とおっしゃっていたそうです。

そこに、浮気が起こったわけです。
ご主人にしてみれば、ちょっとした遊びだったのかもしれません。

しかし、奥さまは、「自分には大きく足りないものがあるから、彼に浮気されたのだ」と感じてしまいました。

それ以来、「自分はまったく魅力のない女性だ」と思い込み、ご主人を拒絶し、距離をとって過ごしてきたようなのです。

ご主人は、再三、奥さまに謝り、アプローチもかけたようですが、それ以降、二人はセックスレスとなりました。

ケンカはしませんが、仲がいいとも言い切れない、まるで同居人のような夫婦になってしまったわけです。

そんなお話を聞き、私は奥さまにこうたずねてみました。
「ご主人は、なにかプレゼントをくれたりはしないのですか?」
すると、奥さまは、「ぜんぶ、断っているのです」と答えられました。

「ずっと断ってきたものだから、最近はなにも買ってくれません」

その回のカウンセリングの終わりに、私は奥さまに宿題を一つ出しました。

「ご主人に、なにかプレゼントしてもらってください。できるだけ高価なものがいいでしょう」

「高価って、どれぐらい‥‥?」
「そうですね、たとえば、20~30万円のバッグはどうでしょう。宝石なんかもいいですねぇ」

私はこんなふうにふっかけたのですが、奥さまはただただ目を丸くして、首を横に振るばかりでした。

この宿題は、その後、長い間、実行されることはありませんでした。
しかし、あるとき、ご主人からたまたま、「おまえはなにか欲しいものはないのか?」と聞かれることがあったそうです。

そのとき、この宿題のことを思い出し、奥さまは自分が知っていた唯一のブランド品を思い浮かべ、こう答えました。

「シャネルのバッグが欲しいの。でも、高いわよ」

その瞬間、ご主人はとてもうれしそうな顔になり、「では、さっそく買いにいこうじゃないか」と切り返してきたそうです。

びっくりしたのは、奥さまのほうでした。言ってはみたものの、まったく心の準備がなかったので、うれしい話のはずなのに、パニクってしまったのです。

奥さま曰く、「ダンナが浮気がばれたときにパニクったのと同じぐらい、こんどは私がパニクったの」ということでした。

そんな報告を受け、その日のカウンセリングでは、奥さまのその感情の底にあるものを探していきました。

心の底の底に隠れていたのは、ものすごく激しい怒りでした。

「そんなものぐらいで、浮気を許してなるものか!」というかんじでしょうか。

つまり、ご主人に自分をいっさい愛させない、プレゼントもなにも受け取らないという形で怒りを表現していたわけです。

ご本人も気づいていらっしゃらなかったわけですが、それはそれは大きな怒りなのでした。

しかし、あの浮気から20年、シャネルのバッグを節目に、奥さまは「しかたない、これで許してやるか!」とようやくご主人のことを許せたらしいのです。

では、次回の恋愛心理学もお楽しみに!!

この記事を書いたカウンセラー

About Author

神戸メンタルサービス/カウンセリングサービス代表。 恋愛、ビジネス、家族、人生で起こるありとあらゆる問題に心理学を応用し問題を解決に導く。年間60回以上のグループ・セラピーと、約4万件の個人カウンセリングを行う実践派。 100名規模のグループワークをリードできる数少ない日本人のセラピストの1人。