ほどよいお母さん
『Good enough mother』という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
イギリスの小児科医で精神分析家でもあるドナルド・ウィニコットの言葉で「ほどよい母親」という意味です。
ドナルド・ウィニコットは完璧なお母さんが完璧な子育てをするのではなく、ほど良いお母さんがほどほどに良い子育てをすることこそが、子どもにとっては大事なことだと考えました。
子どものニーズすべてに応える完璧なお母さんよりも、時には失敗したり的外れなことをしてしまったとしても、それが子どもの成長につながるというのです。
赤ちゃんの世界はワンネス?
赤ちゃんの世界に自他はないといわれます。
「私」と「あなた」という区別がないのです。
赤ちゃんは、お腹が空けば誰かがミルクをくれる、オムツが気持ち悪いと誰かに替えてもらえる。
お風呂にも入れてもらえるし衣服や空調の調節までしてもらえるし、眠いときは抱っこしてトントンまでしてもらってベッドへ運んでもらえもします。
これらはほとんどの場合お母さんによるお世話ですが、赤ちゃんにはそれがわかりません。
赤ちゃんからすれば、すべて魔法のように自動的に自分の欲求が当たり目のように満たされるのです。
赤ちゃんは、まさに万能感に満ち溢れた王様なのです。
むかし、ベビーカーに乗った赤ちゃんがお散歩中の大型犬をヨシヨシしていたかと思ったらそのうち大型犬のヒゲを思いきり引っ張りだしました。
赤ちゃんは、キャッキャと喜んでいます。
ヒゲを引っ張られた大型犬が怒り出して赤ちゃんに危害を加えるかもと、まわりの大人たちは慌てて赤ちゃんの手をヒゲから放そうとしますが、加減を知らない赤ちゃんの力は意外と強い。
なんとか犬のヒゲを赤ちゃんが手放すことに成功してホッとしたことを覚えています。
こういうときの犬って、不思議と穏やかに赤ちゃんのなすがままにさせていたりしますが周りの大人たちはヒヤヒヤしますよね。
大人ならヒゲを思いきり引っ張るなんて出来ないですけど、赤ちゃんには自他の区別が無く、ヒゲを引っ張ったら犬が痛がるだろうとか、怒り出して噛まれるかも、なんて考えないのですね。
自他の区別が無く、まるで自分の一部のように世界を見ているのです。
完璧ではないお母さん
そんな万能感に溢れた王様のような赤ちゃんですが、赤ちゃんが泣くからミルクだと思ってミルクを用意したけれど、実は赤ちゃんはオムツが気持ち悪かった。
または、風邪を引かせてはいけないと厚着させていたらぐずるのでよく見ると汗をかいていた。
なんていう経験をしたお母さんは多いと思います。
完璧ではないほどよいお母さんはそのような見当違いや思い違いをして、赤ちゃんの万能感を打ち砕いてゆきます。
この、完璧ではないお母さんの不完全さによって赤ちゃんは「私」「あなた」という区別がついてくるといいます。
「子どものニーズを満たしてあげられない私は、母親失格ではないか?」
そう感じるお母さんは多いかと思いますが、親も人間なので完璧ではありません。
社会に出れば自分の思い通りにいかないことは当たり前のようにあります。
子どもは完璧ではない、ほどよいお母さんによって“現実”を知り、万能感を手放してゆくのです。
そして、お母さんにとっても「子どものニーズをすべて満たしてあげることができない」という“現実”を受け容れるプロセスになります。
子どもの感情に寄り添う
そうはいっても、子どもの感情に寄り添うということは子どもの安心感を育むにはとても大切なことでもあります。
子どもが転んで「痛いよー」と泣いたとき、親は「それくらい痛くないよ。大丈夫!」と子どもの気を逸らそうとしたり励ましたりしてしまいがち。
また、一瞬お母さんとはぐれて大泣きしている子どもに「もうお母さんはここに居るからもう泣かなくていいよ」と流してしまったりすることもあるかもしれません。
私たち大人からすると些細なことのように思いますが、子どもはうまく自分の思いを表現できません。
そんなとき、子どもの気持ちを代弁して「痛かったね」「怖かったね」と共感して子どもの気持ちに寄り添うことは「わかってもらえている」という安心感という心の土台をつくるのにとても効果があります。
親の共感的な態度によって、子ども自身が自分の感覚や感情を理解し、自己信頼が培われてゆくのです。
とはいえ、それとて完璧にできるわけではありません。
なので、やはりお母さんは「ほどほどに良い母親でOK!」と自分を許すことが大事かなと思います。
「完璧ではないけどがんばっているよね、私」とご自身を認めてくださいね。
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来週は、朝陽みきカウンセラーがお送りいたします。
どうぞ、お楽しみに♪