本当に好きだったのはあの人?それとも私の理想?

その恋、見ていたのは相手じゃなく「理想」だったかもしれない

恋が始まるとき、私たちは相手自身ではなく、自分の中にある理想像を好きになっていることがあります。この記事では、恋愛における幻想や投影がどう生まれるのか、そして現実の関係と向き合うための視点を探ります。

◆その恋、見ていたのは相手じゃなく「理想」だったかもしれない

恋の始まりは、なぜあんなに特別に感じるのでしょうか。言葉、しぐさ、タイミング、すべてが完璧に見えてしまう。でも、その特別さは、本当に相手自身の魅力だったのでしょうか?もしかすると、私たちは相手を見ているようで、自分の理想の人を見ているのかもしれません。

人は誰しも「こういう人に愛されたい」「こんなふうに扱ってほしい」という無意識の欲求をもっています。そして、その欲求にぴったり重なるような人物が現れたとき、私たちはその人を理想化します。

たとえば、優しくされたことで「この人は私をわかってくれる」と感じたり、少し謎めいているだけで「深い人なのかも」と期待を膨らませたり。実際にはほんのわずかな情報しか知らないのに、頭の中ではすでに理想の恋人像が完成しているのです。

私たちは、恋に落ちるとき相手のすべてを見ているのではなく、自分の見たい部分だけを拡大して捉えてしまうことがあります。そして、理想通りに見えた瞬間、相手はもう特別な存在に仕立て上げられてしまうのです。

その中には、過去の寂しさや誰かに理解されなかった記憶が色濃く影響していることもあります。理想の恋人とは、単なる好みではなく、「あのとき満たされなかったものを埋めてくれる存在」として心に現れてくるのです。

◆理想が壊れるとき、恋が冷めたように感じる

関係が深まるほど、相手の現実の姿が見えてきます。すると、理想とのギャップに違和感を覚えるようになります。

「なんだか思っていたのと違う」「どうしてそんなこと言うの?」
このとき、相手が変わったというより、私たちの投影が外れ始めたともいえるのです。恋が冷めたように感じるのは、じつは自分の幻想との別れの痛みだったのかもしれません。

現実の相手は、理想のパズルのピースにはまってくれるわけではありません。だからこそ、「冷めた」という感覚の正体を知っておくことが、自分自身の恋愛パターンを知る第一歩になります。

恋の終わりがあんなにもつらいのは、ときに「理想の人などいない」という現実を突きつけられた痛みなのかもしれません。自分が描いた完璧なストーリーが崩れたとき、私たちは「幸せなんてどうせ夢物語だ」という大きな喪失感を覚えます。

◆投影に気づくことが、関係のはじまりになる

心理学では、自分の心の中を外側の世界に映し出すことを「投影」といいます。投影は、ときに自分の願望や不安を他人に映し出すこともあります。

恋愛においては、過去の満たされなかった思いや、自己否定感を癒してほしいという期待が、相手に向かって投影されることが多いのです。

「この人なら私を救ってくれるはず」「この人となら過去を乗り越えられる」と。でも、そうした感情は相手の本質ではなく、自分自身の中にあるものです。

相手を真に見るというのは、その投影に気づき、「私はこの人に何を求めていたのか?」と問い直すことです。さらにいえば、自分の中にどんな不安や不足感があったのかを知ることでもあります。

恋愛の中で相手に期待していたものが、じつは自分自身の自己肯定感の欠如や、過去の寂しさからくるものであった場合、相手にそれを埋めてもらうことは根本的な解決にはなりません。

投影が外れたあとに残るのは、「ありのままのその人を愛していた」という感情より、「自分の中のなにかをこの人に投影していた」という事実です。これは痛みを伴う気づきですが、その痛みこそが、現実の関係を築く第一歩になります。

◆幻想から現実へ 本当の関係はそこから始まる

幻想を抱くこと自体は悪いことではありません。むしろ、それは人を好きになるときの自然なはじまり。恋に落ちるために必要なマジックです。

しかし、恋が深まる過程では、その幻想を手放しながら、相手の現実の姿を知る必要があります。「思っていた人とは違うけれど、それでも一緒にいたい」そう思えたときこそ、理想ではない関係としての恋愛が始まるのです。

恋は投影の中に始まりますが、愛は投影のなかには育ちません。けれども、投影を手放すには勇気がいります。

相手が「自分を満たしてくれる誰か」ではなく、「自分と同じように不完全な存在だ」と認めることは、ときに痛みを伴うからです。

でも、その痛みを超えたとき、ようやく関係が対等になります。愛は相手を理想に閉じ込めることで成り立つのではなく、相手と共に生きていく覚悟の中に生まれ、育てていくものだからです。

つまり、恋愛とは「誰かに満たしてもらう物語」ではなく、「誰かと共に満たしていこうとするプロセス」なのです。だからこそ素晴らしいのです。

(完)

 

この記事を書いたカウンセラー

About Author

失恋からの立ち直り、都合のいい女からの卒業、本気の婚活、浮気や離婚問題を乗り越える、夫婦関係の修復、離婚から再出発など、恋愛&男女関係の相談が多く、恋愛・結婚生活に悩む人の駆け込み相談所的な存在である。 30歳からのうまくいかない恋愛と40歳からのこじれた男女関係の解決を提供している。