こんにちは、カウンセリングサービスの山田耕治です。
いつも「ビジネス心理学」をお読みいただき、ありがとうございます。
私は日々の仕事の中で、簿記や会計に触れる機会が多くあります。
経営数字を見たり、財務諸表を読み解いたりしていると、ふと立ち止まって深掘りしたくなる瞬間があります。
そんな時に思うのです。
「会計って、“ズレを整える芸術”なのかもしれない」と。
今で区切る必要があり、どうしてもズレがでてくるのです。
簿記の世界には“借り方(左)”と“貸方(右)”という、二つの側面があります。
お金を使えば「借り方」、入ってくれば「貸方」。
左右が必ず一致するように記録されるのが「複式簿記」です。
これは単なる記録方法ではありません。
取引の二面性をきちんと残すことで、会社の財政状態や経営成績を正確に把握できる画期的なシステム。
18世紀の文豪ゲーテも、「人類最高の発明の一つ」と称賛したといわれています。
でも、会計のすばらしさは、数字の正確さだけではないように思うのです。
“どんな出来事にも、必ず二つの側面がある”という考え方そのものが、人の心の在り方にもつながっているのではないでしょうか。
たとえば、怒りの裏には悲しみがあり、
不安の裏には願いがあり、
強さの中には、かすかな弱さがある。
感情にもまた「借り方」と「貸方」があって、右と左があってこそ、全体の姿が見えてくる。
だから私は、簿記や会計に触れることは、単なる経済活動ではなく、“心を整える練習”にもなっているように感じています。
そして、こうも思うのです。企業会計のみならず、「ズレは、当然に起こるもの」と受けとめられたら、ずいぶん楽になるのではないかと。
家族の中でも、パートナーや同僚との間でも、意見が合わなかったり、タイミングがすれ違ったりします。
でも、それは誰かの失敗ではありません。
人が違えば、感じ方やペースも違う。
ズレは、自分の今を区切るとどうしても出てくるものであり、むしろ皆が「生きている証拠」なのだと思います。
大切なのは、責めることではなく、整えること。
ズレが生まれたら、立ち止まって、調整し直す。
それは面倒な作業ではなく、むしろアートであり、Skill(技術)。
そもそも「アート」という言葉には、“芸術”という意味のほかに、“技”や“スキル”という古い語源の意味があります。
つまり、ズレを整えるというのは、感性だけでなく、経験と繰り返しで磨かれていく「人の技」なのです。
私たちはみんな、日々「ズレ整えのアーティスト」として生きているのかもしれません。
たとえば「減価償却」。
建物や機械など長く使うものの価値を、時間に沿って少しずつ費用にしていく考え方です。
それは、焦らずに“時間とともに成熟していく力”を信じるようなもの。
コーヒーの焙煎にも、そんな感覚を感じます。
浅煎りで酸味を残すか、深煎りでコクを出すか。
どちらも、焦げないように火加減を見ながら、ゆっくり香りを育てていく。
人の成長も、きっとそれに似ているように思います。
思うように結果が出ない時も、「私はいま、減価償却中なんだ」と思えたら、少しだけ、心がほぐれていく気がします。
次に「引当金」。
これは、まだ起きていない出来事にあらかじめ備える仕組みです。
貸倒引当金:貸付金や売掛金などが将来取り立て不能になることに備えて計上します。?
賞与引当金:従業員に支給する賞与のうち、当期に負担すべき部分を計上します。?
修繕引当金:将来発生する可能性のある大規模な修繕費用に備えて計上します。?
将来の支出を見越して、今のうちに少しずつ準備しておく。
人間関係でも、そんな“心の備え”があるといいなと思うことがあります。
「次、上司がまた“あの言い方”をしてきたら、ムッとする前にコーヒーを一口飲もう。」
これも、心の貸倒引当金なのかもしれません(笑)。
ちょっとした“余白”を用意しておくことで、感情の波に飲まれにくくなる。
私たちの心も、いつもどこかで引当中なのだと思います。
そして「税効果会計」。
少し難しい言葉ですが、“いまの税金と将来の税金のズレを整える考え方”です。
実際に払う税金(現実の納付額)を法人税等調整額を±して調整します。
たとえば、今年多く払った税金が、来年には戻ってくることがある。
逆に、今年は少なくても、将来は増えるかもしれない。
そうした“時間のズレ”をちゃんと記録し、見える化するのが税効果会計です。
コーヒーでいえば、それは焙煎後の「寝かせ」。
焙煎したての豆はガスが抜けきっておらず、味が落ち着かない。
一晩寝かせることで香りがまろやかになり、角がとれる。
人との関係にも、そんな“寝かせの時間”が必要な時があります。
言われた瞬間に反応せず、一晩置いてみる。
翌朝には、あの苦味が不思議とまるくなっている。
そんな時、私たちはきっと税効果会計中なのだと思います。
会計もコーヒーも、そして人の心も、すべて「ズレを整える芸術」であり、「技術」でもあるのかもしれません。
焦らず、腐らず、待ちながら。
ズレを恐れず、責めず、整えながら。
完璧ではないけれど、苦味も酸味も、やがて一杯の味になる。
今日、仕事がうまくいかなかったとしても、
「まあ、減価償却中だから」
「今は引当中で」
「ただいま税効果会計中です(笑)」
そんなふうに自分をやさしく眺められたら、心はきっと、整い始めているのだと思います。
そしてもうひとつ。
私はチャッピーのようなAIを、学びや気づきの相棒としてとても頼もしく思っています。
けれども、人と人が向き合って生まれる“ぬくもり”や“呼吸”の共鳴は、やはり人にしかできないものです。
相手の声の揺らぎや、沈黙の奥の想い、その瞬間に流れる“間”の感情を感じ取る。
カウンセリングでは、そんな目に見えない微細な心の動きが、人を少しずつ変えていく力になると感じています。
その人にしかない“リズム”や“物語”を尊重しながら、ときに会計そしてAIの力も借りて、心のズレを整えるお手伝いをしているのだと改めて思います。
数字も香りも、そして心も、一瞬では整いません。
でも、整えようとするその姿勢が、仕事にも、家族にも、人生にも、静かな深みを与えてくれるのだと思います。
焦げそうになったら火を弱めて、まだ青いなら、もう少し待ってみる。
やがて、あなたという人生のカップから、いちばんやさしいそしてフルーティー(最近のコーヒーのこだわり)な香りが立ちのぼる日が来ることを信頼しています。
カウンセリングもお待ちしています。