人はなぜ嘘をつくのか 〜悪気のない嘘の、深いワケ〜

嘘の奥にある“本当の気持ち”とは?

嘘をつくのは悪いこと? そう考えて責めがちですが、嘘は「自分を守る」「関係を保つ」ための心の反応でもあります。
この記事では、嘘が生まれる心理とそのパターン、自分や相手を理解するためのヒントを、日常の視点から丁寧に解説します。

こんにちは、大門昌代です。
今回は「嘘の心理」について、お届けします。

「嘘はついちゃダメ」
「正直に生きるのが一番」
そんなふうに言われて育った方も多いのではないでしょうか。

けれど現実には、人は誰でも“嘘”をつきます。
それも、いわゆる「悪意ある嘘」ではなく、日常の中に紛れている、ちょっとした嘘。

たとえば
・「大丈夫だよ」と言いながら、内心は不安でいっぱい。
・「行けたら行くね」と返して、実は最初から行くつもりがない。
・「怒ってないよ」と言いつつ、ほんとは少しムッとしてる。
こうした言葉に、覚えがある方も多いかもしれません。

◆ 嘘をつくのは“人間らしさ”の表れ

嘘というのは、単に「人を騙す」「傷つける」ものではありません。

実際には、
・相手との関係を壊したくない
・本音を言うのが怖い
・自分の弱さを見せたくない
そんな「自分か相手を守ろうとする心」から生まれていることがほとんどです。
心理学では、こうした嘘を「自己防衛的な反応」と呼びます。
つまり、心が自分を守るために、とっさに出している“心理的なガード”。
嘘をついたとき、それは「悪い自分」ではなく、「ちょっと不安になっている自分」が顔を出しただけかもしれません。

◆ 嘘の裏には、“守りたいもの”がある

たとえばこんなケース
・「怒られるのが怖くて、つい誤魔化した」
・「嫌われたくなくて、本音を隠した」
・「自信がなくて、自分を少し大きく見せた」

このようなとき、嘘は“武器”ではなく、“防具”です。
決して攻撃的な意図があるわけではなく、ただ「自分を守りたかっただけ」なのです。
だから、嘘をついた自分を責めるよりも、「どんな不安があったんだろう?」「どこに怖さを感じていたんだろう?」と、気持ちを見つめてあげることの方が大切です。

◆ 心理学で見る「嘘の4タイプ」

心理学では、嘘の背景にある目的や動機から、いくつかのタイプに分けて考えられています。

① 自己防衛型の嘘
「叱られたくない」「バカにされたくない」「見下されたくない」など、
不安や恐れから自分を守るために出る嘘。
▶︎ 例:「やっておいたよ」(実は忘れていた)

② 対人調整型の嘘
相手を傷つけないように、場の空気を壊さないように配慮して出る嘘。
▶︎ 例:「その服、似合ってる!」(心の声:ちょっと違和感あるけど…)

③ 自己演出型の嘘
自分をよく見せたい・認められたいという承認欲求から出る嘘。
▶︎ 例:「昔はけっこうモテたんだよね」(話をちょっと盛っている)

④ 無意識・習慣型の嘘
自覚なくクセのようについてしまう嘘。
本人も嘘と気づいていない場合もあります。
▶︎ 例:「私、何でもすぐ忘れちゃうタイプで〜」(実はそうでもない)

これらはいずれも、人が不安を抱いたときに、無意識で使ってしまう「心の調整手段」です。

◆ 嘘を前にしたとき、ふたつの視点

誰かが嘘をついたとき、私たちはつい「裏切られた」「信用できない」と感じてしまいます。
でもそんなとき、このように考えるのも一つの方法かもしれません。
「この人は、なぜ嘘をついたんだろう?」
「何を怖がっていたのかな?」
「守ろうとしたものは、何だったんだろう?」
すると、その人が抱えていた“不安”や“葛藤”が見えてくるかもしれません。
そして、責めるよりも「そういう気持ちだったんだね」と理解する方向に、気持ちが動いていくこともあります。
同時に、これは自分自身に対しても同じです。
誰かに対して嘘をついてしまったとき。
あとで「なんであんなこと言っちゃったんだろう」と自己嫌悪になるとき。
「私は、どんな気持ちを隠したかったんだろう?」
「どんな“本当”を見せるのが怖かったんだろう?」
嘘を責めるのではなく、
その嘘の“下にある本音”に気づいてあげることが、自分へのやさしさでもあり、自分を理解する上で大切なことです。

◆ 嘘はダメなもの?それとも、サイン?

もちろん、嘘によって人を傷つけることもありますし、信頼関係が壊れることもあります。
だから「嘘をついてもいいよ」と無条件に肯定するわけではありません。
でも、「嘘=悪」と一刀両断にするのではなく、
「なぜ嘘が必要だったのか?」と考えてみることで、そこには大切な“心のサイン”が見えてくるのです。

それはたとえば
・わかってほしい
・受け入れてほしい
・怖くて本音が出せなかった
・ちゃんと存在していたい
そんな「心からの願い」が、嘘という形を借りて、出てきただけなのかもしれません。

◆ 最後に:嘘の奥にある“本当の気持ち”と出会うために

人は、嘘をつく生き物です。
でもそれは、「弱さがあるから」。
そしてその弱さは、人間らしさの証でもあります。
嘘を見たとき、自分がついたとき、誰かにつかれたとき、それを“責める材料”にするのではなく、“心の声に気づくきっかけ”にできたら。
人間関係も、自分自身との関係も、少しやさしいものになるのかもしれません。

(完)

 

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この記事を書いたカウンセラー

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恋愛や結婚、浮気や離婚など男女関係、対人関係やビジネス関係、家族関係や子育て、子供の反抗期、子離れ、親離れ問題など幅広いジャンルを得意とし、お客様からの支持が厚い。 女性ならではの視点と優しさ、母としての厳しさと懐の深さのあるカウンセリングが好評である。PHP研究所より3冊出版。