「わかってるでしょ?」が伝わらない理由
そんなもどかしさを抱えたこと、きっと誰にでもあるはずです。
言葉を尽くしても通じない。逆に誤解されてしまう。
それは、伝え方の問題だけではなく、「伝わる前提」に潜む心理的な思い込みが原因かもしれません。
こんにちは、大門昌代です。
今回は、日常で多くの人がつまずくテーマ、「伝えたいことが伝わらない」問題について書いてみようと思います。
「ちゃんと説明したはずなのに、全然わかってもらえなかった」
「こっちの気持ちなんて、最初から興味ないんだと思う」
「なんでそんなふうに受け取るの…?」
そうやって、誰かとの関係の中で、疲れきってしまった経験はありませんか?
私たちは「伝えたら伝わるはず」だと思っています。
でも現実には、伝えたつもりのことがまったく伝わっていなかったり、意図しない形で伝わってしまったりして、余計なすれ違いを生むことがあります。
この「伝わらなさ」には、いくつかの構造的な理由があります。
その中でもよく見られるのが
1. 相手の“読み取りモード”が違う
人は常に情報を受け取れる状態でいるとは限りません。
たとえば、疲れていたり、気が立っていたり、頭の中がいっぱいだったり。
そんなときに何か大事なことを伝えようとしても、相手にはその“重要度”が伝わりません。
これは「相手が悪い」という話ではなくて、「聞く側にもコンディションがある」というだけのことです。
耳は開いていても、心のスペースが開いていない。
だから、届かない。
相手に伝えるべき内容だけでなく、「今、伝えるべきかどうか」を見極める力も、実はコミュニケーションの中ではとても大切なんです。
2. 自分の中では“すでに完結”している
自分の中ではすでに整理された感情や結論を、いきなり言葉にするときに、実は「前提」がすっぽり抜け落ちていることがあります。
たとえば、「私はもうあなたに期待していないから」と言ったとして、
相手からすれば「え、いつそんなに期待されてたの?」「何か怒らせることした?」となる。
でも、言っている側は、
「ずっと我慢してきた」
「何度も裏切られた」
「察してほしかった」
こういった背景を“自分の中だけ”で理解してしまっていて、言葉にしていないんですよね。
つまり、「経緯や感情の文脈」を飛ばして、結論だけ伝えてしまう。
これでは相手にとっては唐突すぎて、理解のしようがありません。
3. 感情が“にじみ出て”しまっている
もうひとつ厄介なのは、「言葉では丁寧にしてるつもり」でも、声のトーンや顔の表情、雰囲気にイライラや怒りがにじみ出てしまうパターンです。
「別に怒ってないよ」って言いながら、明らかに目が笑ってない。
「大丈夫だから」って言いながら、動きがどこか不機嫌。
こうなると、相手は言葉ではなく「空気」を読みます。
そして、「なんか責められてるな」と感じて、ますます距離をとる。
伝えるとき、まず自分の感情がどこにあるか。
そして、相手の“受け取る姿勢”にそれがどう伝わるか。
この両方に意識を向けないと、無意識に“圧”をかけてしまうんですね。
4. わかってる前提の“投影”
身近な人にほど、「言わなくてもわかるでしょ?」という甘えや期待が入りやすくなります。
これはいわゆる“投影”です。
「私はこれだけ苦しんでるんだから、あなたもわかるよね?」
「普通ならこうするよね?」
そうやって、自分の前提を相手に重ねてしまう。
でも、相手は別の人生を生きてきた他人です。
当たり前ですが、感情の流れも、判断の軸も、あなたとは違う。
伝えるには、「自分と相手は違う世界にいる」と認めるところから始めなければいけない。
これが本当の意味で“伝わる関係性”をつくる、最初のステップなのかもしれません。
「伝えたいのに伝わらない」という経験は、誰にでもあります。
でもそれは、あなたの感情が間違っているわけでも、相手が冷たいわけでもない。
大切なのは、「伝える」という行為を、自分本位な“発信”にしないこと。
相手の今の状態、関係性のタイミング、伝え方のニュアンス、そして自分の感情の整理。
このあたりをほんの少しだけ丁寧に見直してみると、驚くほど、伝わり方は変わっていくものです。
簡単ですが、参考になりましたら幸いです。
(完)