“嘘”をついた子どもに、私が叱るのをやめた理由

子どもが嘘をついたとき、どうしますか?
叱る? 見逃す? 笑って流す?
でも、その嘘の奥にある“本当の気持ち”に目を向けてみると、親子の信頼を育むヒントが見えてくるかもしれません。

 

嘘つきはどろぼうの始まり?

「嘘つきはどろぼうの始まり」——
私自身、子どもの頃に何度も聞かされた言葉です。
小さな嘘も放っておくと、やがて大きな悪事につながる。
だから、嘘は絶対にいけない。
私も、親になってから、そんな“正しさ”を、ふりかざしてしまうことが何度もありました。

嘘なのかな?そんな疑念を感じると、「本当なの?」「やったって言ったよね?」「証拠、見せて」——
まるで犯人を追い詰めるように、子どもを問い詰めていたこともあります。

一方で、ちょっとした嘘だったら、波風を立てるより、あえて気づかないふりをしたり、騙されたふりをしてやり過ごすこともありました。
「まあ、今回はスルーしておこう」
そんなふうにしていた自分も、確かにいました。

 

嘘の奥にある気持ちに目を向けてみる

たとえば、「宿題やったの?」と聞いたとき、「うん、やった」と答える息子の目が、ほんの少し泳ぐ。
——あ、これはやってないな。
そういう瞬間、親ならなんとなくわかるものです。

昔の私なら、すかさず「嘘をつくなんてダメ!」と叱っていたと思います。
でも今は、少し違う見方をするようになりました。

子どもが嘘をつくときって、
「本当のことを言ったら、怒られるかもしれない」
そんな“怖さ”があるのだと思います。

でも、その感情のさらに奥には、「お母さんをがっかりさせたくない」「悲しませたくない」そんなやさしさが隠れていることもあるんです。

 

信頼を育てるコミュニケーション

でもある日、聞き流せない“嘘”をついたのです。
「お財布、落としちゃってさ……」
そう言ってきた息子の言葉に、私はピンときました。
なんか、嫌な感じだな。と。

よくよく聞いてみると——
本当は「お金が足りなくて、ちょっと貸してほしい」と言えばよかっただけ。
でもそれがどうしても言えなかったのです。

恥ずかしさや、怒られるかもという不安が先に立って、“財布を落とした”という嘘をついてしまったのです。
私はそのとき、やっと膝を突き合わせて、ちゃんと話そうと腹をくくりました。

「もし本当でも、嘘でもお金を貸すけど」
「でも、嘘はあなたが苦しくなるからやめてね」
そう伝えると、息子はしばらく黙ったあと、「ごめん」と言ってくれました。

私はそのとき、ふと気づいたんです。
この子はきっと、怒られるのが怖かっただけではなく、「お母さんをがっかりさせたくなかった」のかもしれない。
これまでもずっと、私のこと、悲しませたくなくて、息子なりに守ってくれていたんだなって。

「もう、苦しみを抱えなくていいんだよ」
そう伝えながら、私はやっと、息子の“苦しさ”や“やさしさ”と向き合うことができました。

 

一緒に、“隠す生き方”から卒業だ!

そして思い出したのです。
私自身も、子どもの頃から嘘をついてきました。
本当のことを隠して、黙って、誰にも見つからないように振る舞ってきました。
怒られたくなかったし、嫌われたくなかったし、何より、誰かを悲しませたくなかったから。
——ああ、私も、同じだったな。

だからこそ、私は息子に決意表明をしました。
「もう、お互い“苦しい愛し方”はやめよう」
「一緒に、“隠す生き方”から卒業しよう」と。

 

正直に言ってくれて、ありがとう

それからというもの、息子の中の「隠さなきゃ」「ごまかさなきゃ」という雰囲気が、和らいでいったように感じました。

そして数日後、息子がこう言ったのです。
「これ、買ってほしいんだけど」
これ、何気ない会話だと思うのですが、私にとっては嬉しい言葉でした!だって、以前の息子なら、「あれが壊れてて」「今セールでね」など、前フリや言い訳がセットだった。その日は、ただストレートにお願いしてきたのです。
私は思わず笑って「今回は特別に買ってあげる!」と返しました。
そして心の中で、こうつぶやきました。
「正直に言ってくれて、ありがとう」って。

 

嘘からはじめる“新しい関わり方”

子どもが嘘をついたとき。
「この子は、どうしてそう言わなきゃいけなかったんだろう?」と想像してみる。
そして、もしできたら——
「どうして、そんなふうに言ったの?」と聞いてみる。
責めるのではなく、「知りたいから」という気持ちで、嘘の奥にある気持ちに目を向けることが、大切だと学びました。
どんな嘘にも、きっとそこには、何かを守りたかった気持ちや、誰かを想うやさしさがあるはずだから。

 

嘘も方便——ちょっとした“装飾”だって人生の知恵

……とはいえ、私たち大人だって、いつも真正直に生きているわけではありませんよね。
ときには、言葉を少し濁したり、角度を変えて伝えたり——“本音をそのまま”伝えるより、“ちょっとだけ装飾した方がうまくいく”こともある。

誰かを思いやるための“言い方の工夫”もまた人間関係を円滑に保つための、大切な知恵なのかもしれません。

子どもたちの嘘は、そんな工夫を少しずつ学んでいく過程にあるのかもしれません。

だからこそ、私たち大人が深刻になりすぎずに、あたたかい目で見守ることも、時には大切なのだと思います。

「嘘も方便」とは、よく言ったものですね——

私のお話が、少しでもお役に立てたらうれしいです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

来週は池尾千里カウンセラーがお届けします。どうぞお楽しみに。

 

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この記事を書いたカウンセラー

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孤独感の中で生き続け、離婚や再婚、うつを乗り越えた経験から、パートナーシップや自分自身の問題を多く扱う。圧倒的な受容力と繊細な感性を活かし、言葉に出来ない感覚や感情にフォーカスすることが得意。問題に隠れた愛や魅力を見つけ、クライアントが安心して自己実現できるようサポートをしている。