“母のために自分の感情をしまい込むクセ”
◆いい子だった私はなぜ苦しい?
「お母さんを困らせたくなかった」
「私がしっかりしなきゃと思っていた」
そんなふうに、子どもの頃から“いい子”をがんばってきた方は少なくありません。そして、その頑張りが大人になった今も自分をしんどくさせている場合があります。
「母の笑顔を見たい」
「母に喜んでもらいたい」
「母を心配させたくない」
母子癒着の背景には、たいてい「いい子だった私」がいます。そう思って、自分の気持ちよりも“母の気持ち”を優先するようになっていったのです。
子どもにとって、親の反応はとても大きな意味を持ちます。母が笑顔になると安心し、母が不機嫌だと自分が悪いことをしたように感じる。
その繰り返しの中で、少しずつ「私はいい子でいなきゃ」と思い込むようになっていくのです。
「ちゃんとしている私」こそが、愛される私。
「迷惑をかけない私」こそが、大切にされる私。
そんな信じ込みが、心の深いところに根づいていきます。
◆子どもが空気を読むということ
子どもは本来、感情をそのまま出せる存在です。イヤなことがあれば「イヤ」と言い、泣きたいときには泣く。
でも、母が不安定だったり、心配性だったり、何かを抱えている様子だったりすると、子どもは空気を読み始めます。
「私が泣いたら、お母さん困るかも」
「イヤって言ったら、がっかりするかも」
「お母さんが悲しそうだと、自分のことまで悲しくなる」
そんなふうに、“母のために自分の感情をしまい込むクセ”が自然と身についていきます。それは決して、誰かが悪いという話ではありません。むしろ、愛情があるからこそ起こることです。
子どもはとても敏感です。大好きなお母さんの役に立ちたくて、元気づけたくて、つい自分の気持ちを後回しにしてしまうのです。
これは、子どもが“自分を守るために選んだやり方”です。とても健気で、優しくて、愛情深い行動です。でも、そのやり方が大人になっても続くと、自分がどんどん苦しくなっていきます。
◆がんばりぐせがつらくなるとき
大人になっても“いい子”をやめられないと、こんなふうになりやすいです。
・人に頼れない
・弱音を吐くのが怖い
・「いい人」でいることが当たり前
・断ることに強い罪悪感を感じる
・恋愛で相手に尽くしすぎて疲れる
・いつも「これでいいのかな?」と自信が持てない
・誰かと一緒にいるとき、本音より「正解」を探してしまう
こうした行動の奥には、「人に迷惑をかけてはいけない」「自分の気持ちは後回しにしないといけない」「期待に応えるのが愛される方法」といった、深い思い込みがあります。
この「いい子スイッチ」は、気づかないうちにONになっていることが多く、無理をしているつもりはないのに、ふとしたときに心が重くなったり疲れたりして現れます。
それは子ども時代に身につけた“生きるための知恵”だったのです。その頃はそれで心を守ってきたのです。だからそんな自分を責める必要はまったくありません。
でも、今のあなたには、もうその「がんばりぐせ」に頼らなくても生きていける力があります。少しずつ手放していくことはできるのです。
◆本当の気持ちに目を向けてみる
「いい子でいることに疲れた」
「誰かに頼りたいのに、頼れない」
そんな気持ちに気づいたなら、それは心からのサインです。
たとえば、「母のためにしっかりしてきた」ことは、一方で「自分の本音を感じないようにしてきた」ことでもあります。
「本当はどうしたかった?」
「どんなときに泣きたかった?」
「どんなときに我慢していた?」
「本当は、誰に何を言いたかった?」
こうした問いかけを、自分にしてみてください。すぐに答えが出なくてもかまいません。大切なのは、「私には本音があるんだ」と思い出すこと。それだけで、心は少しずつ柔らかくなっていきます。
もしあなたが今、「私は母子癒着かもしれない」と気づいたなら、それはとても勇気ある一歩です。気づいた瞬間から、心の変化は始まっています。
“いい子”は、やめようとしてすぐにやめられるものではありません。でも、「私、ずっとがんばってきたね」と自分に声をかけることは、今すぐできます。
それが、“自分とのつながり”を取り戻す第一歩になります。母との関係がどうであれ、これまで一生懸命生きてきたあなたの姿は、すでに十分に尊いのです。
次回は、「母から離れる=母を見捨てること?」というテーマで、母子癒着から自立するときに感じる罪悪感や恐れについてお話していきます。
(続)