コンプレックスをもったエリート

こんばんは

神戸メンタルサービスの平です。

彼は弁護士で35歳。

人が憧れる職業に就いていますし、人柄もよいので、なかなかモテます。

お見合いの話はしょっちゅう来ていますし、女性からアプローチされることもしばしばあるのですが、彼自身はなかなか乗り気になりません。

自分のお嫁さんは自分で見つけたいし、ほんとうに好きになった人と結婚したいと思っているし、自分が好きになった人にも自分のことを好きになってもらいたいと思っているのです。

ところが、そう思う一方で、彼は自分が人に好かれるとは思うことができずにいました。

それにはじつは深い理由があったのです。

そして、思いあまった彼は、今回、私どもにご相談におみえになりました。

なるほど、見た目は爽やかで、誠実そうで、話し方もしっかりしていて、好感のもてる人物です。

その彼が女性とつきあうことを拒否しているので、彼を知る人たちの中には、「ひょっとして、彼は女の子に興味のないタイプ?」なんて言う人もいるようなのです。

彼は深刻な表情で言いました。

「女性に興味がないわけではありません。しかし、たしかに私には秘密があって、そのために自分が女性に愛されるとは思えないんです」

彼がだれにも言えない秘密とは、じつはカツラのことでした。

二十歳を過ぎたころから急激な抜け毛に悩まされ、なにをしても抑えることができず、20代半ばにはもう頭のてっぺんが立派なハゲ頭状態になっていました。

学生時代は友人たちからさんざんネタにされ、同級生の女の子たちにも一緒になってからかわれたりして、モテるどころではなかったわけです。

卒業後、彼は1年間の司法浪人を経て弁護士になりました。そのタイミングでカツラを使いはじめ、復活を遂げたわけであります。

何度も言いますが、彼はよくモテます。しかし、彼はこう思っているわけです。

「みんながぼくを高評価してくれる。でも、高評価されているぼくがハゲでズラだなんて‥‥」

「愛する人にこんな恥ずかしい部分を見られるぐらいなら、死んだほうがましだ‥‥」

そして、絶望しているわけです。

“社会の目”という言葉がありますが、彼は人一倍それが気になるタイプであるようでした。

そこで、それを癒すために私どもの癒しのセミナーであるヒーリングワークを彼にすすめてみました。

ヒーリングワークではさまざまな実習をしますが、グループに分かれて行う実習の一つに、「自分のイケていないところ」をグループのみんなにシェアし、みんなから「そこがカワイイ!」と言ってもらう、というものがあります。

これを2日間のヒーリングワークの初日の午前中に行ったのですが、当然といいますか、そのときは彼はカツラのことをだれにも言うことができませんでした。

しかし、2日目のことでした。受講生個人の問題を扱う時間のとき、ある若い女性が「自分は膝に障がいがあり、人工関節を入れていて、それがコンプレックスになっている」という悩みを話しはじめました。

そのとき、彼の心はものすごく揺さぶられ、そして、彼女が「こんな私でも愛されますか?」と涙ながらに訴えたとき、彼は号泣しながら彼女を応援していたのです。

そして、「こんな若い女性でも、自分のコンプレックスにきちんと向き合っているのだ」と感じた彼は、そのあとの時間に清水の舞台を飛び降りるような気分で、グループの仲間の前で自分の秘密を話してみたのです。

みんなの反応はびっくりするものでした。

「初日から知ってました」

「バレてますよ、弁護士なんだから、もっといいの着けないと」

さらに、一人がいいました。

「ですから、あなたは秘密にしているつもりかもしれないけれど、お友だち関係でも、お仕事関係でも、まわりにいるほとんどの人にバレていると思いますよ」

そして、もちろん、グループの全員が、ハゲでヅラの彼をやさしく受け入れたのです。

来週の恋愛心理学もお楽しみに!!

(完)

この記事を書いたカウンセラー

About Author

神戸メンタルサービス/カウンセリングサービス代表。 恋愛、ビジネス、家族、人生で起こるありとあらゆる問題に心理学を応用し問題を解決に導く。年間60回以上のグループ・セラピーと、約4万件の個人カウンセリングを行う実践派。 100名規模のグループワークをリードできる数少ない日本人のセラピストの1人。