兄との競争

わたしたちは子供の頃に欲しかったものはただひとつ、親の愛情といいます。
生まれた時、すでに親の愛を存分に受けていた兄がいたわたしは、兄以上に愛されなければと思い兄に競争をしていました。
「親に一番に愛されたい」
わたしたちは子供のとき願うのですが、兄弟姉妹がいると、親の愛情を取り合うライバルとなるのです。

わたしの生まれ育った家族は、両親と4つ上の兄とわたしの4人家族。
わたしが34歳の時に母が亡くなり、そして3年前に父が亡くなると、わたしに残された家族は兄だけとなりました。
いま思えば、家族はみなカニが大好物。
昔は家族でカニを囲みながら、「ここ美味しいよ」とか、「ここ身がたくさん取れるよ」なんて言いながら、みんなでカニを楽しんでいました。
先日、パートナーが頼んでくれたカニがとても美味しく夢中になって食べていたのですが、ふと、家族でカニを囲んだしあわせな時間がとても懐かしく感じました。

「あ~、お兄ちゃんにも食べさせてあげたいな」
すぐに注文して兄に、「カニを送ったからね」とLINEをしたところ、既読はついたものの返事はありませんでした。
長年不仲でいた兄に、連絡を取りたくないと思われるほど嫌われているのかも知れません。

わたしが幼少期の頃、兄はわたしをとても可愛がってくれていたようで、兄の友人がわたしに触ると、「僕のまきに触るな!」と怒っていたのよと、母がよく話していました。
兄は友達と遊ぶときはわたしを連れて行き、鬼ごっこやドロ刑などの遊びに混ぜてくれ、クリスマスにはわたしが集めていたドラえもんの漫画の続きと、いつも食べていたお気に入りのチョコレートを枕元に置いてくれました。
まだサンタクロースがいると信じていたわたしは、ピンポイントにわたしが欲しいものが枕元にあることが不思議で仕方なく
「サンタさんは何故、わたしの欲しいものを知っているの」
と、家族に聞いて回っていたそうです。

そんな仲の良かった兄妹も、わたしが小学校にあがると激しい兄妹喧嘩をするようになりましたが、4つも年上の兄との勝負は力でも口喧嘩でも一度も勝てたことはありませんでした。
周りの人には兄と比べられ、
「お兄ちゃんのほうが顔が可愛い」とか、
「お兄ちゃんは勉強ができるのに」と言われ、わたしは兄と比べ出来が悪いから、母はわたしより兄を愛しているのではないか。そう思い、兄とわたしと、どちらがより母に愛されているかを気にするようになりました。

わたしが小学6年生になると兄は全寮制の高校に入り、大学も北海道の大学へ進学したので、物理的にも距離が出来、兄と会うことはほとんどなくなりました。
北海道に行った兄は、大学もろくにいかずに何年も留年し、仕事もせずに遊びほうけて親に多大な迷惑をかけていました。

「なんでそんなにだらしないの!」
「長男なんだから責任感持ってよ!」
わたしは心の中で兄に怒っていました。

兄は家族に迷惑をかけるダメな人なのに、それでも両親は変わらず兄を愛し面倒を見ている。
「出来の悪いわたしは兄以上には愛されない」と思い込んでいたわたしは、
「迷惑をかけるダメな兄よりもわたしを愛して欲しい」と願いました。
いま思えば、兄を悪者にすることで、わたしは兄より愛されていると思いたかったのだと思います。

現在、兄は家庭を持ち、来年大学生になる娘と、趣味のズンバやサンバに大忙しの奥さんがいます。
母娘は毎年、夏になると浅草のサンバカーニバルで踊って楽しく暮らしています。
兄は立派に夫や父親の役割を果たしているんです。
それなのにわたしは何十年も兄へのイメージを更新せず、「迷惑をかけるダメな人」にして嫌っていました。

「お兄ちゃん、小学生の多感な時期に妹を連れて遊びに行くのは嫌じゃなかったのかな」
「お兄ちゃんがクリスマスにわたしが欲しいものをくれたのは、わたしをよく見ていてくれたからなんだ。お兄ちゃんはわたしを愛してくれてたんだ」
見方を変えて兄を見てみると、妹思いの優しい兄がわたしの中に戻ってきました。

わたしがカニを囲み笑い合っていたあの時を懐かしく思うのは家族の愛に包まれてしあわせだったから。
そう思うと、両親への感謝の気持ちでいっぱいになりました。
「父と母は、わたしと兄が仲良くしていたらどんなにうれしいと思うだろう」
わたしは、兄との競争を手離して兄を愛そうと思いました。

兄を嫌うことをやめて愛することを選択したら、わたしの気分はすっきりと晴れました。
人は心と現実が一致していないととても気分が悪いと言います。
だから、心が望んでいるように、兄を愛すると決めたことでとても気分が良くなったんです。

兄の事を「迷惑をかけるダメな人」と嫌っていたのだから、兄もそんなわたしを良くは思っていないはず。
でも、いまのわたしは兄を愛する気満々です。
きっと兄も、そんなわたしを受け入れてくれるでしょう。
人は自分を愛してくれる人には愛を返したくなるものですからね。
仲良し兄妹になれたらいいなと願いながら、これからは兄とのコミュニケーションを楽しもうと思います。

この記事を書いたカウンセラー

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こじれたパートナーシップを改善するサポートを得意とする。 気さくで親しみやすいキャラクターで、クライアントの問題解決に寄り添い続ける粘り強さがある。 やわらかい雰囲気だが、鋭い感性で的確に問題の原因を探りアドバイスをもらえると支持を集める。優しさと鋭さを兼ね備えたカウンセラーである。