親密感への恐れ

私のことをすべて知っている人には恐れる必要はなくなります

こんばんは

神戸メンタルサービスの平です。

彼女は子どものときから、よい子でした。

母親曰く、「色鉛筆と画用紙さえ与えておけば、ずっとお絵かきをしていて、ぜんぜん手のかからない子だったわ」。

そして、学校では真面目で、お勉強もよくできて、クラブ活動にも活発に参加するという典型的な優等生だったわけです。

ところが、年ごろになり、パートナーシップのことや結婚のことを考えはじめると、なにをどうしていいのか、彼女にはまったくわかりません。

そもそも、自分がだれかとおつきあいができるなどいうイメージもまったく湧きません。

また、結婚というものがよろこびにつながるともまったく感じることができないのです。

彼女曰く、「大好きな人に、自分をぜんぶ見られて、知られてしまうわけでしょ‥‥。寝ているときにイビキをかいたり、歯ぎしりをしたりするかもしれない。まして、オナラでもしちゃったら‥‥」

寝ているときでさえ、優等生を演じられない自分のことは許せない、救いがないというぐらいのことを彼女は考えているわけです。

“すべてを見せて、愛し、受け入れてもらう”

この考え方が、彼女には恐すぎてできないわけです。

超がつくほど優等生の彼女は、自分の感情をつねに上手にコントロールして生きてきたようです。

友だちがテレビゲームや携帯ゲームで盛り上がっていても、うっかりそれに興味をもつと、のめりこんでしまうかもと思ったりすると、けっしてそれには近づきません。

友だちの大半は中学時代から携帯電話を持ちはじめましたが、彼女が持つようになったのは高校2年のとき、塾の帰りに親に連絡することが必要になったときが初めてでした。

そんな禁欲的な生き方をしてきた彼女なので、心が爆発するほどのよろこびを感じるような経験はほとんどしたことがありません。

そんなふうに、自分の心をコントロールできないようなそんな体験をしてしまったら、自分がどうなるかわからないという恐怖をもっていたわけです。

そのため、「万が一、好きになった相手が悪い男だったら、その男のために、私は夜の仕事に身をやつしてしまうかもしれない‥‥“などということさえ考えてしまうのです。

しかしながら、禁欲的であればあるほど、その欲求は妄想としてものすごく大きなものになっていきます。

たとえば、みなさんが2日間ほど断食をしていたとします。

ついつい、食べ物のことばかり考えてしまい、「断食道場を出たら、あの中華屋のメニュー、ぜんぶ注文して食ってやる!」なんて思ったりしますよね。

といっても、ラーメンを1杯食べたら、もう満腹。そして、さっきまでの勢いのいい欲求も消えてしまいます。

1カ月ぶりのデートのとき、「今夜はおまえを寝かさないぞ」と言った彼が、1回目のフィニッシュのあと、イビキをかいて寝てしまうのと同じようなものです。

そう、欲求は満たしてあげると簡単に消えるのですが、満たしてあげないかぎり、どんどん大きくなっていってしまうのです。

さて、ご相談者の彼女ですが、禁欲的な彼女にも唯一、よろこびといえることがありました。一人旅です。

だれかと一緒に気を使いながら旅するのではなく、自由に、気ままに、いろいろなところを一人でめぐることが、彼女にとっては楽しく、心地よいことであったわけです。

私は彼女にこう聞いてみました。

「あなたが訪れた素晴らしい場所を、こんどは大好きな人と一緒に訪ねてみるって考えてみたら、どうかな?」

その質問をした瞬間、彼女の顔は真っ赤になりました。

その彼女のために私が処方したのは、“おかあさんとの二人旅”。

彼女のことをぜんぶ知っているおかあさんなら、知られる恐れをもつ必要はありません。

そのおかあさんと、旅先でのさまざまな出会いや発見をともに分かちあってくださいとお願いしました。

こうして、彼女が分かちあうよろこびを学んだとき、パートナーシップにも新しいドアが開きはじめたのです。

 

では、来週の恋愛心理学もお楽しみに!!

この記事を書いたカウンセラー

About Author

神戸メンタルサービス/カウンセリングサービス代表。 恋愛、ビジネス、家族、人生で起こるありとあらゆる問題に心理学を応用し問題を解決に導く。年間60回以上のグループ・セラピーと、約4万件の個人カウンセリングを行う実践派。 100名規模のグループワークをリードできる数少ない日本人のセラピストの1人。