部下のパワーを引き出す~自己重要性を満足させる~

社内の会議やビジネスのシーンでは、
「ビジネスライクにいこう」
「仕事に感情を持ち込むな!」
などという言葉を時々耳にします。
前者は仕事と割り切って進めようという事であり、後者は論理で進めようという事ですね。
そしてその対極にあるのは、感情です。
人間は感情の動物といわれますが、その感情無しに進めようという訳です。
果たしてそんな事は本当に可能なのでしょうか?

答えはNoです。
私たちがどのような結論を導こうと、そこには必ず心のプロセスが存在します。
その心のプロセスには、必ずその人の感情を伴うからです。
その結論がいかに感情を排しようとする結論であっても、そのこと自体が感情を反映しているからなのです。
「仕事に感情を持ち込むな!」という発言も、実はとっても感情的な発言なのですね。

会社の中やビジネスシーンでは、感情は理性を邪魔する悪者扱いにされることがとても多いのではないかと思います。
確かに、個人的な感情で組織目標やビジネスの目標とは異なった方向に物事を動かしたり、何かへの不満でサボタージュするなど悪い影響を及ぼすこともあります。
しかし一方では、上司の理解や励ましの一言、自分が信頼されていると感じたり役に立っていると感じる事などでモチベーションが高まり、予想以上の結果を生むのも感情のなせる技です。
感情をどう理解し、それをどう扱っていくかで目標を達せられるか否かを左右すると言っても過言ではないのですね。

上司の最大の責務は、「組織の目標をいかに実現するか」という一言に尽きます。
その為、それに必要な人・物・金・情報を集め、それらをどう活用して成果に結びつけていくかが問われる事になります。
中でも、人をどう活かしていくかは、組織目標を達成するための重要なファクターになることがとても多いのではないかと思います。
プレイングマネージャータイプの上司にありがちなのですが、組織目標を一人で背負っている人を時々見かけます。
これは本人が辛いばかりでなく、部下の立場でも役立たない自分を感じて辛くなります。また、一人でできることの限界点で仕事が進まなくなり、往々にして組織目標が達成されないという結果を招いてしまいがちになりますね。
部下がいるのですから、その人達のパワーをフルに引き出せれば当然限界点は大きくアップする事になります。

では、部下のパワーを引き出すにはどうすればいいのでしょうか?
先に書きましたが、人のモチベーションを上げるのは、その人がどう感じるかの感情に左右されます。
従って、先ずは部下の感情を理解する事がとても大切になります。

私たちは、誰かの重要で大切な存在でありたいと思っています。
これを心理学では「自己重要性」と言います。
一見そんな事には縁がないと感じられるような人であっても、この自己重要性は私たち人間の心の根底にある気持ちです。そんな事は関係ないという態度や行動を取っている人は、それが私の手には入らないと諦めてしまっている、自己攻撃や怒りを持っている人なのです。

この自己重要性を部下に感じさせてあげることができれば、部下のモチベーションを上げることができます。
そのためには、「役立っている自分」「信頼されている自分」を感じさせてあげることです。
具体的には、
(1)どんな些細な事でも部下に「ありがとう」を伝える
(2)部下の良いところを褒める
(3)開示できる情報は全て開示する
(4)可能な限り仕事を任せ、援助する
といった事を実行する事です。

上司側としては、これらを実行するためには、先ずは自分に課している仕事に対する厳しいルールや観念を手放す事が求められます。
なぜならば、自分自身へのその厳しさがあると、部下の言動や仕事に対してついつい批判的な視点となり、「ありがとう」が言えなくなったり、良いところを褒める事ができなくなったり、仕事を任せることができなくなったりするからです。
上司側としては、長年培ってきたやり方、成功してきたやり方を手放すことになる場合もあり、なかなか難しい事かもしれません。
でも、そうする事によって組織目標を達成することができるばかりではなく、自分も脱皮して新たなステージへと飛躍する第一歩となるのです。

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この記事を書いたカウンセラー

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恋愛や夫婦間の問題、家族関係、対人関係、自己変革、ビジネスや転職、お金に関する問題などあらゆるジャンルを得意とする。 どんなご相談にも全力投球で臨み、理論的側面と感覚的側面を駆使し、また豊富な社会経験をベースとして分かりやすく優しい語り口で問題解決へと導く。日本心理学会認定心理士。