権威との葛藤を手放す~朝令暮改に感じる感情~

朝令暮改とは、朝出した法令が夕方には改められるという状態で、政策が変更され一定せず、当てにならないような事態を戒めた中国の故事成語です。
一般的には余り良い意味では使われない言葉ですね。

しかし現代の私たちを取り巻く状況は、情報通信の発達や経済のグローバル化、それに瞬時に反応する市場のダイナミックな変化、企業同士の熾烈な競争などの影響を受け、数時間のうちに想定していた状況が一変する場合もよく見受けられます。
そして、それらの変化にいかに素早く対応するかがビジネスの命運を握っている場合もよくある事です。
こうなると、朝令暮改どころか朝令昼改、いえ、朝令朝改などという事も必要になってきますね。

さて、このような場合に限らずとも、一旦決めた方針や指示を上司の立場で変更しなければならない場面、部下の立場としてそれを受け容れなければならない場面があります。
そんな時、上司の立場としては、部下に対して何か申し訳ないような気持になり、それが言い出しにくかったりします。
一方、部下の立場では、せっかくここまでやったのにという気持ちになり、上司への怒りを感じたり、脱力感を感じる場合もあります。そしてそれが大きなストレスになる場合もあります。これらのストレスを感じる根底には「権威との葛藤」と呼ばれる問題が潜んでいます。

「権威との葛藤」は、「上司はこうあるべき」「上司はこうしてはいけない」という観念から、それに合致していない上司に対して批判をしたり、攻撃的な感情を抱く問題です。
この「権威との葛藤」は、仕事の上だけに現れるのではなく、例えば「先生のくせに」「警察官のくせに」「医者のくせに」「議員のくせに」とある種の権限や権威を持った人達にも向けられ事がとても多いのが特徴的です。ある種の権限や権威を持つ人に完璧性を求める気持ちなのです。

そのルーツを探っていくと、子供の頃の私と家族との問題、中でも親子の問題に帰着する事がとても多いのです。
私たちがまだ幼い頃、たとえどんな親であろうとも親は絶対だと信じています。まるで神様の如く思っているのですね。そして、親からの愛情を受け取ろうと、がまんして親の言うことをきいたり、親に自分のことを様々な手段を使ってアピールして認めてもらいたいと思ったりたりします。
しかし、大きくなるに従って、自分自身で絶対だと作り出した親の偶像と現実の人間としての親のギャップに気がついてしまいます。
そのギャップを受け容れることができないと、「親のくせに」「うちの親はアカン」と権威者である親に対する批判的な気持ちや怒りが生まれてきます。
この気持ちが無意識的に「親=権威者」という形となって、権威との葛藤を抱いてしまうのです。

この権威との葛藤があると、自分がそれらの人を攻撃している度合いだけ、その立場に就くと自分も同じように攻撃を受けるのではないかと怖くなってしまいます。
意識的か無意識的かは別として、リーダー的な立場に立つことを拒否してみたり、リーダー的な立場に立ちそうになるとそうならないように失敗する道を選んでみたり、あるいはリーダーになっても「私はそんな器ではありません」という態度をとってみたりします。
権威を受け容れなくてすむような状況を作り出すのですね。
このような状態は、リーダーになる資質や実力があるにも関わらず、とてももったいない話ですね。

では、この権威との葛藤を手放すにはどうすればいいのでしょうか?
その為には、先ずは、自分は完璧ではなければならないとう思いや、自分は不完全という自己攻撃を手放すことです。
そうすると、自分が完璧でなくとも良いと認められた度合いだけ、親や上司など権威者も神様ではなく一人の人間として認める事ができて、それらの人に求めている完璧さを手放すことができます。
そして、権威との葛藤は自然と消滅していきます。
「上司だって失敗するんだ~」とか「まぁ、指示や方針が変わることもあるよな」という様に、状況を深刻ではなく、気楽に受け止めることができるようになります。

さて、朝令暮改の戒めを改めて考えてみると、政策(指示、方針)が定まらない事にあるのです。定まらないとは、「迷う」事なのです。
状況が変化した場合はもちろん、状況を読み間違った場合でも政策の変更は適応するために必要不可欠なものです。
組織目標や目的を達成するためには、政策を機動的に変更することこそが、寧ろ現代社会においては必要な事なのではないのでしょうか?

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この記事を書いたカウンセラー

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恋愛や夫婦間の問題、家族関係、対人関係、自己変革、ビジネスや転職、お金に関する問題などあらゆるジャンルを得意とする。 どんなご相談にも全力投球で臨み、理論的側面と感覚的側面を駆使し、また豊富な社会経験をベースとして分かりやすく優しい語り口で問題解決へと導く。日本心理学会認定心理士。