部下が自己アピールを競い始めたときの落とし穴

一昔前までは、日本人は謙遜を美徳とするせいか、自己アピールが世界の他の国の人に比べてヘタクソでした。ワールドカップや世界選手権、オリンピックのような世界大会に出る選手も大風呂敷を敷くことはまずなくて、インタビューをしても、試合前は「精一杯頑張ります」だし、勝った試合の後でも「信じられません。まさか想像もしていませんでした。応援してくださった皆様のおかげです」が決まり文句でした。それがいつからか堂々と自負をアピールする選手が増えてきました。有言実行を旨として、自分の言葉の重みに押しつぶされないメンタルの強さをもった選手を見るたびに、日本人も変わってきたと頼もしく思います。スポーツ選手に限らず、ビジネスの世界でも自己アピールを肯定的に受け止め、自分の考えや能力をアピールすることがビジネスの成功に不可欠という認識が広がっています。いきおい「自己アピール競争」がヒートアップしやすい環境があります。

確かに「目標を明言する」プロセスを通じてマインドが整理されて、意識も無意識も一つの方向に動き出すと、目標を達成できる確率はグンと上がります。常に目標を設定し、その達成へとチームを導く役割を担うリーダーにとっては、自分とともにその目標を共有してくれて、有言実行で頑張ってくれる部下はとても頼もしい存在です。ついアピールの強い部下を重用しては、「自己アピール競争」をあおりがちです。

ところが、ここに落とし穴もあります。

コフートという心理学者は、人が「安心感」をもつためには、野心が満たされ(つまり褒められて)、理想をもつことができ(理想のモデルがあり)、そしてお互いに共感し合える(いっしょだねと思える)仲間がいることが要件で、この三つの要素がバランスよくあると豊かさや充足感を覚えると言います。逆に、バランスが悪いと、不安感や無意味感に苛まれることもあるようです。

メンバー同士があまり褒め合わない組織では、理想に従うことで安心感を求めるので、リーダーの極端な理想化が起きて、そのリーダーに認めてもらうための「私が」「私が」という自己アピール競争が激化し、その自己アピール競争にのれない人達はその不満でつながることで「安心感」を得ようとする、という構図が出来上がりそうです。

もし、あなたのチームで功を争う「私が」アピールが増えてきたとしたら、背景には「褒められ不足」による「不安感」からくるいらだちがあるかもしれません。こうなると組織全体で共有する目標がおざなりにされやすくなるので、なるべく早くこのサインに気づいて、みんながお互いにお互いの努力を労り、能力を認め合える環境を整えたいものです。

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