孫子より(2)〜中国古典を日常生活に活かす〜

今回は久しぶりに中国古典「孫子」の一文を引用し、私共の心理学とからめて
お伝えします。孫子に関する御紹介は、前回2005年11月2日の僕のメル
マガを御覧下さい。
孫子より〜中国古典を日常生活に活かす〜
http://www.counselingservice.jp/senior/archives/000914.html
今回は次の短い一文をピックアップしました。
*兵は拙速(せっそく)を聞くも、未だ巧(たくみ)の久しきを賭(み)ざる
なり。
これを現代語訳します。


*戦いにおいては、たとえ戦果が不十分な勝利であっても、速やかに終結に導
くことによって戦いの目的を達成したということは聞くが、これに反して、完
全勝利を求めて戦いを長期化させ、結果が良かった例を、いまだ見たためしが
ない。
と、なります。
前回の「孫子」に関する記事もそうでしたが、兵法書なので、そのまま訳すと
違和感を感じるかと思いますので、次のように意訳します。
*争いごと・もめごと・ケンカにおいては、自らが完全に勝利をおさめようと
して、長期化させ、いい結果が得られたという話を聞いたことがない。たとえ
受け入れられる、あるいは受け入れてもらう主張や意見が全面的ではない、不
十分な場合のケースもあるかもしれない。そんなときでも、できるだけ、すみ
やかに終らせるのが望ましくないだろうか?
これなら、かなり身近な意訳と考えていただけるかもしれません。
争い・もめごと・ケンカって、いろんなケースで考えられると思います。結論
から申し上げますと「なるべく争いは、できるものならしないほうがいい。い
ざ、始まったら心身ともに消耗激しく、クタクタになるから。もし、避けられ
なくなった場合にはならば、できるだけ早めに終らせたほうがいい。」と説き
ます。どうして早目がいいかと言えば、長引けば長引くほど、消耗度が激しく
なるからと説きます。
例えば日常生活の中で、身近な人と争いごとになることもあるかと思います。
御家族や親戚の方とか、愛する人。あるいはお友達や、知り合いの方、御近所
の方。(昔の職場の上司には、土地の境界線を巡ってお隣さんと家庭裁判所で
3〜4年係争中の人がいました。メドがたたない先行きのウサをお酒で晴らし
て、毎朝アルコールの臭いをさせて出勤する人だったので、全くの困りもので
した。)
仕事場でしたら、同僚の方や上司の方と仕事の進め方とかで食い違いや、意見
が衝突したりとか。外部の方ならお取引先など、利益や権利をめぐって、とか
いろんなケースが考えられます。
自分の主張は絶対正しい、どんなことがあっても貫くぞ、と言わんばかりにや
りあいます。こんな時、少しでも相手より自分が優位にたとうとしがちです。
そのために相手をコテンパンに追い詰めたりもします。「ねぇ、白黒はっきり
させようじゃないか!」とか。あるいは自分の思うように相手を動かそう(コ
ントロールと言います)としたりします。
これは、どちらかが争いを有利にすすめて自分が優位に立とうとする、主導権
争いです(パワーストラグルと申します)。争いに勝ったほうは、面白いかも
しれませんが、負けた側のほうの人は、どう感じるでしょう?だまって相手に
従うケースもあるかもしれませんが・・・一時的に勝利を収めても、長い目で
見ると、のちのちに遺恨を残さないとも限りません。
じゃあ、もし自分が屈辱感を感じる側にたった場合を想像してみて下さい。い
かがですか?いい気はしませんよね。機会をうかがって、有利な側に立つこと
を考えようとすると思うのです。たとえ表面上は何もなくても、相手の人との
心理的な距離は離れたままです。はてしなく、争いが続かないとも限りません
よね。
だからって、ただ単に早く終らせればいいかと言えば、そんなことはありませ
ん。お互いの意見や主張を伝え合いながら、議論を尽くすことも必要かと思い
ます。
では、なぜ「争い」は起きるのでしょう?争いを仕掛ける人の内面の葛藤が対
人関係に反映される(投影される)からです。そこには、満たされなかった欲
求があります。大切にしてもらえなかった、信頼していた相手から裏切られた
などなど、いろいろあるでしょう。悲しく・苦しく・にがい砂を咬むような辛
い経験をいっぱいしたのかもしれません。でも相手から見れば、自分の都合だ
けを押し付けられてるように感じるんですね。「こっちの都合なんか全然考え
てくれてないじゃないか!」って。
では、お互いに距離感が縮まらない、このこう着した主導権争いを抜け出すた
めには?当事者同士で共通した目標を見つけることです。御家族や親戚、パー
トナーの方やお友達など身近な人同士で休日の過ごし方が決まらないなら「い
かにみんなで楽しく過ごすか?」っていう風に。ビジネスであれば「共存共栄
する」かもしれませんね。目標を決めて具体的にどうするかは、ケースバイケ
ースだと思いますが「あなたも私も勝ち(WINWIN)」であれば、なお望
ましいかと存じます。
しかし、このメルマガを読まれる方は役職にも就かれたり、ご家庭・子育て等
抱えられたり背負うものや・・・守るものがいっぱいある方々も御覧になって
おられることでしょう。簡単に「WINWIN」のきれいごとだけでは済まさ
れないよ、ってケースの方が・・・正直多いと思います。積み重ねた月日・い
きさつを考えれば、とことん争いを続ける、やりあう場合もあるでしょう。
しかし、上でも申し上げたように「争いが長引く」とは言い換えれば、消耗戦
の連続で「WINWIN」とは逆の流れだと思います。つまり「あなたも私も
負け」の双方ノックアウトの危険をはらむのです。例えば(僕は法律の専門家
ではありませんが)仮に裁判にもちこまれるような争いになった場合は、お金
・時間・労力等の消耗が激しいので、長期化するほど共倒れの可能性が高まる
と考えてよい、なのです(裁判そのものをするなとは言ってませんので誤解の
ないようにお願いします。しかるべきところへ出て、はじめて決着がつく問題
もあるからです)。
また周囲の人たちも、はじめは協力的で応援してくれてたのが、終わりのメド
が立たないと判れば次第に厭戦(えんせん)ムードに変わる(うんざりして非
協力的な立場に変わる)場合もあるからです。
だから、かけはしになるような共通の目標もないまま、自らの主張を続けて争
い続けるのはよくない、そうであればまず「終らせる」ことを最優先の目標と
せよ、それから具体的なことを決めていくのがよい、なのです。
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