周囲からは評価されているのに、なぜか心が疲れてしまう。「いい人」でい続ける背景には、無意識に抑え込んできた感情があります。
優しさの裏側にある心の仕組みを、シャドウの視点から丁寧にひも解いていきます。
いい人でいるほど、自分の気持ちがわからなくなる
頼まれると、つい引き受けてしまう。
本当は気が進まなくても、断る理由を探すより先に、体が動いてしまう。
場の空気が悪くなるくらいなら、自分が我慢したほうがいい。
そんなふうに生きてきた人は、決して少なくありません。
そして多くの場合、その生き方は周囲から高く評価されます。
優しい人ですね。
気が利きますね。
あなたがいると助かります。
言われるたびに、少し誇らしい気持ちになることもあるでしょう。
実際、あなたの優しさに救われた人もいるはずです。それでも、心の奥では別の感覚が残ります。
なぜか疲れている。
誰かと一緒にいるのに、満たされない。
一人になったとき、どっと力が抜ける。
人間関係はうまくいっているはずなのに、心が置いていかれているような感覚。
なぜ「いい人」でいるほど、心は静かに消耗していくのでしょうか。
◆いい人は、生まれつきの性格ではない
いい人という性格は、生まれつき備わっているものではありません。
多くの場合、それは育ってきた環境の中で身につけてきた生き方です。
子どもの頃、泣いたら困られた。
怒ったら叱られた。
わがままを言うと、場の空気が悪くなった。
そうした経験が重なると、心は学びます。
感情を出すと危険だ。
欲しいと言うと嫌われる。
我慢しているほうが、ここにいられる。
その結果、いい人でいることが「安全な選択」になります。
空気を読むこと。
期待に応えること。
自分の気持ちより周囲を優先すること。
これはその環境で生きていくために、あなたが選び取った、とても賢い方法でもあったのです。
◆抑え込まれた感情は、消えずに残る
いい人でいるために抑え込んできた感情は、消えてなくなったわけではありません。ただ、表に出る場所を失っただけです。
怒り。不満。違和感。本当は断りたかった気持ち。
それらは心の奥に残り続けます。そしてあるとき、別の形で姿を現します。
理由のわからないイライラ。
急な疲労感。
人の一言に過剰に反応してしまう自分。
これらは、長いあいだ、自分の感情を後回しにしてきた心が、もうこれ以上は難しいと知らせてくれているサインです。
◆なぜ「いい人」は苦手な人に強く反応するのか
自己主張の強い人。
遠慮なく意見を言う人。
場の空気より自分を優先する人。
こうした人に対して、「いい人」をやってきた人ほど強く反応しやすい傾向があります。
もちろん、相手の態度が乱暴だったり配慮に欠けていたりする場合もあります。
けれど同じような言動でも、強烈に気になる相手と、そこまででもない相手がいる。
その差は、あなたの中にある「使われていない感情」に関係しています。
断りたかった。
言いたかった。
自分を優先したかった。
その本音を長いあいだ抑えてきたからこそ、それを自然にやっている人を見ると、心がざわつくのです。
◆いい人をやめるとは、冷たくなることではない
いい人をやめると聞くと、わがままになるのではないか。人を傷つけてしまうのではないか。
そんな不安が浮かぶ人もいるでしょう。
けれど、いい人をやめるとは、優しさを捨てることではありません。
自分の感情を無視したまま優しくしない、という選択です。
今、嫌だと感じている。
今、無理をしている。
その事実をまず自分が認める。
それだけで、これまで自動的に引き受けてきた行動に、ようやく躊躇が生まれます。
◆優しさを、自分にも向けていく
本当の優しさは、自分をすり減らすことではありません。
自分を犠牲にし続ける優しさは、いつか苦しさに変わります。
いい人であり続けてきたあなたが、悪いではありません。
ただ、その生き方しか選べなかった時期があっただけです。
これからは、いい人でいるかどうかを、少しずつ自分で選び直していい。
自分の気持ちをなかったことにしないこと。人に対しての優しさを、自分に対しても向けていくこと。誰かにとっていい人が、自分のとっていい人とは限らないのです。
次回は、このシャドウが恋愛の中でどのように現れるのかを扱います。
誠実で安定した人を前にすると心が動かないのに、不安になる恋に惹かれてしまう理由。そこにも、今日見てきた「いい人」の心の構造が、深く関わっています。
(続)