大切な人を失くして混乱する気持ちを理解するために
心の状態を理解するために、悲嘆のプロセス5段階(否認・怒り・交渉・抑うつ・受容)を解説します。
焦らず穏やかな気持ちを取り戻していきましょう。
大切な人を失うことは、人生で最も辛い経験のひとつです。混乱と悲しみ、怒りなど、様々な感情が出てくるのは自然な反応です。無理に感情を抑え込まず、ご自身のペースで悲しみに向き合いましょう。「こんなに悲しくて良いのか」「早く立ち直らなきゃ」と自分を責めないでくださいね。丁寧にやさしく、心と対話していただければと思います。
●悲嘆のプロセス
大切な人を失った時、心はいくつかの段階を経て癒えていくと言われています。これは「悲嘆のプロセス」(精神科医キューブラー・ロスが提唱)と呼ばれ、一般的に以下の5つの段階があると考えられています。ただし、これはあくまで目安で、順番通りに進むとは限りません。また、個人差があるものです。
1)否認の段階
はじめに訪れるのは、現実を受け入れられない状態です。「嘘でしょう?」「これは夢?」と、喪失を信じることができません。感情や感覚の麻痺があって、自分が現実に追いつかないような状態です。これは、あまりにも大きな衝撃から自分自身を守るための、心の働きでもあります。
例えば、無意識に亡くなった人の帰りを待ったり、食事を用意したり、物をそのままにしたりする行動が見られるかもしれません。
2)怒りの段階
現実を受け止めざるを得なくなると、次に出てくるのは怒りです。喪失の原因となった人や状況、あるいは自分自身に対して、強い怒りを感じることがあります。
「どうしてこんなことに?」「なぜ私に起こるの?」という不公平感や、「もっと何かできたはずだ」という後悔が、怒りの形となって現れることもあります。周囲に八つ当たりしたり、攻撃的な言動をしてしまうこともあるかもしれません。
3)交渉の段階
怒りの感情が落ち着くと、「交渉」という段階に入ることがあります。これは、失ってしまった現実をなかったことにしようとする、心の葛藤です。
「もしあの時、私が~していれば」「~していたら、こんなことにはならなかったのに」と、過去の行動や出来事を振り返り、別の結末を想像します。まるで、神様や運命と取引をしているかのように、「私が~するから、どうか時間を戻してほしい」と願ったりします。
これは、叶わない願いだとわかっていながらも、現実を受け入れることに抵抗して、悲しみをやわらげようとする心の働きなのです。失われたものを取り戻そうとする最後の試みと言ってもいいかもしれません。
4)抑うつの段階
喪失の現実がどうにもならないと受けいれるしかなくなると、深い悲しみ、無気力、絶望感といった抑うつ状態に陥ることがあります。心身に様々な症状があらわれます。
睡眠障害や食欲不振、集中力がなくなって仕事や家事が手につかなくなったりすることもあります。何をするにも気力が湧かず、今まで楽しめていたことにも興味が持てなくなったりもします。誰とも会いたくなくなり、引きこもることもあるかもしれません。喪失によって、何もかもが無意味に感じられ、希望を見失ってしまった状態です。
ゆっくりと休息を取り、自分を大切にしていただきたい時期です。
5)受容の段階
時間をかけて、少しずつ喪失の現実を受け入れ、新たな生活に適応していくのが受容の段階です。悲しみが完全に消えるわけではありませんが、悲しみを抱えながらも、少しずつ前を向いていこうと思う気持ちも出てくる状態です。
故人との思い出を語ったり、写真を見て笑えたり、感謝の気持ちを感じたり、温かい気持ちになる瞬間が増えていきます。
とはいえ、時には悲しみがぶり返すこともあるでしょう。それも、自然なことです。悲しみを否定せず、感じる気持ちを全部「今そう感じているんだな」と受けいれ、無理に感情を抑え込もうとせず、ご自身の感情に寄り添ってあげてくださいね。
繰り返しになりますが、悲嘆のプロセスには個人差があります。焦らずに、心と対話してみてくださいね。
●心のケア
心身の疲労を回復させるためには、睡眠と食事も大切です。無理のないよう休息と栄養を取っていきましょう。喪失直後は、一時的に緊張・興奮して眠れなくなるのも自然なことです。
その場合は、無理に眠ろうとせず、温かい飲み物を飲むとか、部屋の照明を暗くするとか、リラックスしやすい環境を作ってみたり、散歩やストレッチなどの軽い運動を取り入れてみましょう。
それから、感情を消化していくには、泣く・書く・話すといったことも方法のひとつです。
可能であれば、安全な場所で思う存分泣いてみる、日記や手紙などで気持ちを書き出してみる、気持ちに寄り添ってくれる人に感じるままに話してみる、などしてみましょう。
そして、たとえ時間がかかったとしても、いつか大切な人とのかかわりを人生の大事な一部として感じられますように。大切な人との心のつながりを、穏やかで温かい気持ちとして感じられますよう願っています。
(完)