自分の世界観

自分の面倒を見てくれるだれかを探している彼

こんにちは 平です。

この日、おみえになった男性は、開口一番、このようにおっしゃいました。

「自分はかなりの自立タイプで、“弱い自分”をまったく受け入れられずにきました。しかし、これからは自分の弱さも受け入れ、愛せるような人間になりたいと思っているんです」

しかし、この男性は、口で言っていることと、かもしだしている雰囲気がまったく正反対であると私には見えました。

私の目から見た彼は完全な依存タイプ。ほとんど自立はできていないといってよさそうです。

そして、実際のところは、“弱さ”が受け入れられないのではなく、“素晴らしい自分”や“強い自分”になること、さらに、“十二分な愛をもち、その愛を他者に分け与えていくことのできる自分”になることが受け入れられないというのがふさわしいように感じられました。

そこで、彼に聞いてみました。「そもそも、どんなきっかけでご相談におみえになったんでしょう?」

すると彼は、この1年の間に父親と母親が相次いで亡くなり、いままで頼りにしてきた人がいなくなってしまったと答えました。

さらに、姉と兄がいるものの、それぞれ家庭をもっており、自分の面倒はあまり見てくれないということへの不満もおもちでした。

なんのことはない、亡くしたご両親の代わりに自分の面倒を見てくれるだれかを探しているということですね。

そして、面倒を見てくれたとしても、ご両親に比べるとなっていなくて、物足らないと思っているわけです。

これは、なかなかのダダッ子です。

このダダッ子をご両親は甘やかして育ててこられたようで、彼は「人は自分を理解し、愛してくれるのが当たり前」と考えるタイプです。そして、未だに独身です。

今回のご相談の主旨も、「弱い自分を受け入れることにより、人からもっと面倒を見てもらおう」ということであったわけです。

これは、いわば古典的なパターンで、子ども時代に病気やケガをしたときに出てくることがよくあります。

みなさんも憶えがあるかもしれませんが、病気やケガをすると、ご両親がいつもよりだいぶやさしくなったりしますよね。

そこで、自分が弱い人間になることで、人から愛してもらおうと彼はしているわけなのです。

彼はおそらく勤務先でもこのパターンを使っています。

周囲には、そんな彼をなんとか理解しようと温かく見守ってくれている人もいると思いますが、残念ながら、彼はそのことにはほとんど気がついていません。

それどころか、「みんな、僕を中心に考えてくれない」という不満をもっていますので、まわりの人のことを愛そうなどという発想も湧いてきません。

そんな彼の心には安らぎがありません。

心理法則によれば、「自分が愛していないものは、敵である」と心は認知します。

まわりの人に不満を感じているということは、敵に囲まれている状態といえますから、油断することができないのです。

したがって、心の充足を得るためには、まず、彼のほうがまわりの人に愛を与えることが必要なのですが、彼にはそれがなかなか理解できません。

また、彼は自分について、なにか大きな罪悪感をもっています。

しかし、それをだれかのせいにすることで、自分の罪悪感と向き合うことはせずに過ごしています。

彼のようなタイプの場合、どこかの時点で知人や会社の人などから、「もう、いいかげんにして!」と言われるような出来事が起こり、すべてを失うというリスクがあります。

どれだけ寛容に彼を愛し、理解しようとしても、本人はまったくそれを受け取らず、不満までもっているわけです。まわりはたまったものではないですよね。

しかしながら、この彼の場合、会社の年配の女性が唯一の味方になってくれたのです。

「かわいそうに。すっかり自信をなくしているのね」という目で彼女は彼のことを見てくれました。

実際、彼はほぼすべての自信を失っていましたし、自分自身の価値というものもまったく評価していませんでした。

ただ、「この女性は、自分のことを愛してくれている」ということは、唯一、理解できました。

そこで、私は彼にこんな提案をしてみたのです。

「彼女が喜ぶようなことをちょっとしてみましょうよ」

しかし、彼は異常に照れて、それを拒否しました。

ただ、その一方で、彼女を喜ばせることについて、自分がどうしてこんなに抵抗を感じるのか不思議に感じたようなんですね。

で、そのことばかり考えていたところ、思い出したのが、子どものころから「自分には人を喜ばせることなどできない」と思い、自分を嫌悪していたということでした。

そんな彼が、もしも、たった一人でも喜ばせることができたとしたら‥‥。

それは、彼が作ってきた、「自分はけっして誰のことも喜ばせることができない」という世界が崩壊するときです。

住み慣れた世界が壊れる怖さ、それが彼の心の抵抗を作っていたのですね。

では、来週の『恋愛心理学』もお楽しみに!!

この記事を書いたカウンセラー

About Author

神戸メンタルサービス/カウンセリングサービス代表。 恋愛、ビジネス、家族、人生で起こるありとあらゆる問題に心理学を応用し問題を解決に導く。年間60回以上のグループ・セラピーと、約4万件の個人カウンセリングを行う実践派。 100名規模のグループワークをリードできる数少ない日本人のセラピストの1人。