つり橋効果

こんにちは平です。

恋愛を定義づけるとしたら、「好きという感情を、二人で共有することである」ということもできるでしょう。そう、恋というものは、きわめて感情的なものであり、理論的なものではありません。

恋する二人の間には、もちろん、「大好き」という感情があります。

また、ケンカをすれば、「あなたなんか、大嫌い!」という感情も芽生えますし、「でも、やっぱり、離れられない! 大好き!」といった具合にアップダウンもするわけです。

心理学の用語に、“つり橋効果”というものがあります。

これは、ひどい高所恐怖症の人が必死の思いでつり橋を渡り、渡りきったところにある飲み物を飲んだとき、「なによりも、おいしい飲み物だ!」と感じることをいいます。

それがビールであれば、家の冷蔵庫に入っているのとまったく同じ銘柄だったとしても、「こんな思いをして手に入れたビール」は、「ものすごくおいしいビール」になるわけです。言い換えれば、「こんな思いをして手に入れたビールなんだから、おいしくなければやってられない」というわけです。

つまり、それがよい感情であろうが、悪い感情であろうが、なにかたいへんな経験をしたとしたら、私たちの頭脳は「それは、とても価値があるものだ」ということしようとするようなのです。

たとえば、夫婦ゲンカばかりしていて、お友だちには「別れたほうがいいわよ」とさんざん言われているにもかかわらず、なかなか別れられないという夫婦の間にもこの“つり橋効果”なるものが存在していることがあります。

「いままで、がんばってきたんだから、このがんばりを無駄にしたくない」という思いが心のどこかにあるわけですね。

みなさんにしても、パートナーとのおつきあいが長くなってくると、「これまで、二人で積み上げてきたものをすべてなくし、また違うだれかとイチから作り上げるというのは、なんだかめんどくさいなぁ」と考えることはあるのではないでしょうか。

カップルが長続きするヒケツの一つが、この“感情の共有”であるようです。

二人で、泣いたり、笑ったり、うれしかったり、くやしかったり、ときにはぶつかりあったり‥‥。そのぜんぶを共有することで、二人の絆が強まっていくようなのです。

なかには、「ケンカなんか、じゃんじゃんすればいいのよ」という情熱的なタイプの人たちもいます。そうした人たちは、ケンカするたびにパートナーとなかよしになっていったりします。

といっても、温厚な日本人にケンカを好む人はあまりいませんが、もちろん、ケンカに限定する必要はありません。二人でいっしょに感動したり、なにかの体験を通じて感情を共有するだけでもかまわないのです。

たとえば、立ち合い出産を経験し、「ものすごく感動した」という男性は少なくないと思いますが、これも一つの感情の共有です。それによって、「自分もいっそうしっかりして、家族を守っていこうと誓いました」などという思いが生まれたり、夫婦の絆が強まったりもするわけです。

私は最近、登山に目覚め、いろいろな山岳雑誌を読んでいるのですが、「どんなにひどい夫婦ゲンカをしても、山という場所に行き、ザイルで結ばれ、リスクを共有すると、自然となかなおりできる」という文章に出会い、これも一つのつり橋効果かもしれないと考えたところです。

恋愛初期のロマンスの時代には、二人で感情を共有する機会はいろいろとありますが、おつきあいも1年を越えるとそんなことも少なくなってきます。

そして、そんな時期に起こるケンカの力学を考えてみると、「心のどこかで絆やつながりを求めているからこそ起こる」といえることが、どうも、多いようなのです。

でも、そうなのだとしたら、ケンカという形で感情を共有するよりも、感動という感情を共有することの方が、二人の絆をより強める効果がありそうですよ。

そもそも、感情に触れることというのはリスキーなことですし、少し恥ずかしいことでもありますが‥‥。

手はじめに、最近、あまり言わなくなっていた、心からの「ありがとう」をパートナーに伝えてみると、なにかが変わってくるかもしれませんよ。

 

では、次回の恋愛心理学もお楽しみに!!

この記事を書いたカウンセラー

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神戸メンタルサービス/カウンセリングサービス代表。 恋愛、ビジネス、家族、人生で起こるありとあらゆる問題に心理学を応用し問題を解決に導く。年間60回以上のグループ・セラピーと、約4万件の個人カウンセリングを行う実践派。 100名規模のグループワークをリードできる数少ない日本人のセラピストの1人。