自分らしさ(前編)

こんにちは、平です。

彼女は41歳の帰国子女でした。

おとうさまが商社にお勤めで、海外勤務が長かったのです。

暮らした場所は主にアメリカで、高校まではアメリカの学校で学び、大学は日本でということになって一人で帰国し、4年間の大学生活を送りました。

彼女にとっては初めての一人暮らし、つまり、自立の経験を日本ですることになったわけです。

幸い、おじいちゃんとおばあちゃんが彼女の大学の近くに住んでいたので、なにかあればすぐに二人の家に帰れるという環境にはありました。

しかしながら、彼女にとって、日本での一人暮らしはそれは難しいものでした。

両親とも日本人なので、当然、彼女は外見的にはまったくの日本人。

しかし、大学に入るまではずっとアメリカにいたので、中身は外人さんなのです。

ですから、日本の風習や常識にまったくついていけません。が、外見は日本人なので、だれも彼女には配慮してくれないわけです。むしろ、まわりの人にとっては、彼女がなぜそうするのかわからないということが続いていたようです。

彼女がいちばん驚いたのは、アメリカではあたりまえだったレディ・ファーストが日本ではまったくないということでした。女性である自分が優先されないどころか、「なにをトロトロしてるんだ、さっさとやれよ!」などと言われることもある始末。

で、「日本なんか、まったくクソったれだ!」と悪態をつきながら、ボーイフレンドも作らず、勉強ばかりしていたのです。

大学卒業後は、せめてもの抵抗として外資系企業に勤めました。ところが、そこでも彼女は日本人として扱われ、外国人の上司や同僚からは日本人らしくふるまうことを期待されたのです。

なぜか、外国人の男性は、「日本の女性=ものすごく献身的な大和撫子」というイメージをもっており、そして、「日本ではつねに女性たちにそう接してもらえる」という期待があり、それは日本人の男性がもっているもの以上だったそうです。

はじめのころ、彼女はそんな男性どもを嫌い、憎んでいたのですが、そのうちその剣先は、自分自身や、日本人そのものの自分の容姿に向かっていきました。

やがて、彼女は自分が“無国籍人”であるかのように感じ、よりどころがなくなったような感覚に襲われました。そして、まるで糸が切れたタコのように不安定になり、私どものところに相談に来られたわけです。

彼女のストレスを作っていたものは、本来の彼女はアクティブな女性であるのに、まわりからおしとやかで従順な大和撫子であることを求められることでした。

そのため、彼女は美容整形をして、自分が外国人の容姿になれば、まわりからの誤解はぜんぶなくなるのではないかとまで考えていたのです。

もちろん、私が彼女にした提案は美容整形ではありませんでした。

みんなのイメージの中にアクティブな日本人女性というのがないのであれば、中には一人、そんな人がいれば、それはそれで魅力的に映るのではないか、と彼女に言ってみたのです。

心理学では“コントラスト効果”というのですが、その人がイメージとは違う、意外なふるまいなどを見せたとき、それはとりわけ魅力的に感じられることがあるのです。

つまり、彼女が日本人の女性として、意外にもアクティブだとしたら、まわりの人たちはその特長をより印象的に受けとめてくれるのではないかという提案なのです。

しかし、そう提案しても、彼女自身、アクティブな日本人女性というのが想像できずにいました。

なぜなら、彼女のイメージする日本人女性というのが、そもそも、おしとやかで従順で献身的な女性であったからです。

来週につづく。

 

では、次回の恋愛心理学もお楽しみに!!

この記事を書いたカウンセラー

About Author

神戸メンタルサービス/カウンセリングサービス代表。 恋愛、ビジネス、家族、人生で起こるありとあらゆる問題に心理学を応用し問題を解決に導く。年間60回以上のグループ・セラピーと、約4万件の個人カウンセリングを行う実践派。 100名規模のグループワークをリードできる数少ない日本人のセラピストの1人。