タブーの心理学2~目の前のリモコンが見えない~

タブーを越えることで、まったく新しい世界が広がっています。

僕たちの生活の中で、すぐ近くにあるはずなのに見つからないものってけっこうあるものですよね。
それはリモコンだったり、ケータイだったり、読みかけの雑誌だったり、部屋の鍵だったり。

「メガネ、メガネ、どこいったんだ?」
「お父さん、頭に載せてるでしょ?」
「あっ」
なんて伝統的なしゃれもあるくらいで。

これって目に見える世界だけでしょうか?

実は僕たちが抱える問題を乗り越えるときにも、同じような現象というのは案外多発しているものです。
それは、別の人にとっては何でもないことが、当人にとってはついつい見落としてしまうもの。

でも、心の世界では、見落とす理由もきちんとあったりします。
それは「イヤだから」、つまりは抵抗感です。
「それだけはしたくないなあ・・・」
「えーっ、そんなことできません・・・」

僕たちはイヤなことはしたくないですから、目の前にあったとしても、ついついそこに意識を向けないようにしてしまいます。
それを「タブー」と呼ぶんですね。

それはある種自分で自分に禁止してしまっているものでもあります。
以前一度このテーマを扱いましたが、今回はまた違った角度から「タブー」を眺めてみたいと思います。

◎タブーの心理学 ~禁じられた欲求~
http://www.counselingservice.jp/lecture/lec16.html

●タブーを越える意味

時にはそのタブーを越えてみる勇気が必要なときがあります。
もうすべての手が尽きてしまったと感じたとき、
与えるものが、もう何もない、と感じたとき、
それは往々にして、行き詰まってしまったときです。

なぜかと言うと、自分で発想できること、自分でできることの多くはもうやり尽くしてしまったからです。
だとすれば、残っている方法は、自分にとっては「したくないこと」だったり、「それは違うだろう」と思うことだったり、タブーなことばかりだったりするんですよね。

僕たちの心は時にこんな状況を作り出すことがあります。
「君にもっとたくさん素敵なものを贈りたいんだけれど、もう、僕の財布の中にはあと5円しかないんだよ。でも、5円ではもう君に何もあげることができない。だとしたら、僕たちは別れたほうがいいと思う」

つまり、デッドゾーンに心がはまりこんでしまっている状態です。

その時はもう何も手が無く、自分には何も価値がなく、だからこそ、関係を終わらせるしかない、そんな気持ちになるものです。
人生の中では、まったく無気力になってしまい「生きていても意味がないんじゃないだろうか?」と考え始めることもあります。

でも、そこにも必ず「まだやっていないこと」が必ず潜んでいます。
そこにチャレンジすると、流れを大きく変え、時には人生が変わってしまうような場合も少なくないものです。

◎デッドゾーンを越える為に~あの山を越えた向こうに見えるもの~ 
http://www.counselingservice.jp/lecture/lec85.html

●タブーの背景

タブーを作るには、その人の心の痛みとの関係が大きく左右します。
「したくないこと」ですから、その多くは「やってみて傷ついた、失敗したことがあること」の集まりでもあるんですよね。

自立的な人は誰にも頼らず生きていこうとします。
それはその人の依存時代(子供時代)に傷ついた分だけ、その自立心は高まるものです
「誰かを当てにしたのに、ぜんぜんダメだった・・・だったら、自分一人で生きていくしかない・・・」
超自立タイプな人の心には、そんな強い痛みが隠れています。
そうするとその人にとって“誰かを当てにすること”というのは、タブーになってしまうんです。

「あんたはかわいくない」と言われてすごく傷ついたことのある女性にとって、「私ってキレイ?かわいい?」なんて、口が裂けても言えないことかもしれませんし、「君ってかわいいね」と言われても、ぜんぜん受け取れなくなってしまうかもしれません。
例え、すれ違う男性が全員振り向くような美女だったとしてもね。

●タブーを越えていく

カウンセリングの中ではそんなタブーを越えるチャレンジを提案することも少なくありません。
目の前のリモコンにはなかなか自分で気付けないけど、他の人から見れば「すぐそこにあるじゃん」なんてことも多いですからね。

でも、それはその人にとっては「うっそー、いやだー」ってことも多いのは先ほどお話した通りです。
だから、提案してもそれを実行するかどうかはご本人次第なんですよね。
イヤなことですから、カウンセラーへの信頼がなかったらできませんし、例え信頼があっても、頑固な自分や恐れが強すぎる自分がいたとしたら、チャレンジすることは難しいものです。
だから、できなかったとしても僕は責めたりはしないんですよね。

ある女性は今のご主人との関係でずっと悩んでいらっしゃいました。
ご主人への愛情を感じられない自分がいて、いつもケンカばっかりだったんですね。
友達にも、家族にも相談し、占いにも通いました。
でも、なかなか状況は好転しません。
そんな彼女はカウンセリングの中で、ご主人に対して愛情を表現することをずっと避けてきた自分に気付きました。

だから、僕は彼女にこんな宿題を出したんです。
「旦那さんの目を見ながら、こう言ってみてください。『あなたのことを愛してます。あなたと結婚できて良かったと思う』と。」

その時の彼女の表情の変化は・・・本当に見事でした(笑)
「えーっ!!そんなこと・・・うわー、できませんて。いやー、恥ずかしい・・・どうしましょ?ねえ、他のことなら言いますから、他のにしましょうよ、ね、ね、ね?」

でも、彼女はとても素直な方なので、そう言いつつも実行してくれることを僕も確信してたんです。
実際、彼女はそれをご主人に伝えてみたそうです。
とても時間はかかったみたいなんですけどね。
そしたら、ご主人の前で一気にいろんな感情があふれてきて、わんわん泣いてしまったそうです。
でも、その時、ご主人がやさしく肩を抱きしめてくれて、初めて付き合った頃よりもずっとドキドキして再びときめいてしまったそうです。

その後で僕の顔を思い出して「ちっ、やられた~くやしぃ~」と思ったらしいんですけどね(笑)

また、別の女性は仕事のこと、恋愛のこと、どちらも壁にぶつかってしまっていました。
彼女は回りから見れば「悩みがなさそうで、いつも元気で明るく、仕事も恋もこなすスーパーウーマン」というイメージだったんですね。
そういう彼女ですから、周りの人から毎日のように悩みを相談されるものの、自分がまさかこんな壁にぶつかってるなんてことは誰にも言えなかったんです。

そこで僕の提案は・・・。
「じゃあ、このカウンセリングが終わったら、いつも仲良くしてる3人の友達にヘルプメッセージを送ってみてくださいねっ」

その瞬間に彼女のエネルギーが明るくパッと変わったのが印象的でした。
もちろん態度は「そんなんできませんって。みんな、パニックになってしまいますし、そんなんなったら、あたし、どうしていいかわからへんって」でしたけど・・・。

でも、彼女もまたチャレンジしてくれたんですよね。
そしたら、いつもはメールを送ってもなかなか返事を寄越さないのに、わずか数分後に一人から電話がかかってきて
「いい、明日の晩、空けといて。ご飯食べいこな」と。
その後も残りの二人から即効反応があって、週末を一緒に過ごすことに。
それ時にある友達がこう言ってくれたそうです。
「あんたも人間やってんなあ。うち、ほっとしたわー」と。

そうした言葉を聞いて、彼女はふーっと肩の力が抜けていったのが実感できたそうです。

●タブーを見つける秘訣

何がタブーなのかを見つけるために・・・
まずはあなたが今関係を良くしたいと思ってる人を思い出してみましょう。
そして、その人に対して言ってない言葉、やってない態度を探して見ましょう。

その時のヒントは「これは恥ずかしいなあ・・・」と思うもの。
あるいは「それはできないよ・・・」と感じるもの。

抵抗を見せる心のどこかに「やってみた方がいいんじゃないの?」という声が聞こえたら、それは今チャレンジしてみるテーマかもしれませんね。

助けを求めることも、愛情を表現することも、先ほど紹介した女性たちにとってはすごく恥ずかしいことだし、抵抗を感じるものでした。
でも、それが関係性や問題を乗り越えるきっかけになりました。

その先にはまったく新しい世界が待ち受けていますし、肩の力が抜けた分、また、新しい力がわいてくること請け合いです。

(この記事でご紹介した例はご本人の許可を得て掲載しています)

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