連鎖する依存関係~その背景と解決へのアプローチ~

自立的な彼と依存的な私。

でも、彼も仕事や何かに依存していたりします。依存はそんな風に連鎖していくもの。その背景と解決へのアプローチを実例を用いてご紹介。

「誰かに依存されてる人もまた何かに依存している」
「世代間に脈々と引き継がれる問題がある」

そんな風に時間や関係性を超えて、同じパターンが繰り返されていることって実際は少なく無いんです。

こういう目で、今起きている問題を見ていくと、より広い視野から物事を捉えられるようになったり、逆にその関係性から新しいことを学べたりします。

今回はちょっと本格的にカウンセリングでの実例を紹介しつつ、心の不思議な現象や解決へのアプローチを見て行きます。

●連鎖の一例

ある女性Aさんのお話です。
彼女は今お付き合いしている彼のことが大好きで、大好きでたまらなくて、何でも彼の言うとおりにしてしまうような方でした。
いつも彼のことを考えていて不安になってしまうことも多く、友達からも「彼に頼りすぎ」ってよく注意されるそうなんですね。

そういう彼女とお付き合いしている彼は得てして冷たい印象を与えてる方が多いのですが、Aさんの場合も「彼が私のことをどう思っているかどんどん自信がなくなってしまう」とカウンセリングを受け始めました。

彼女の不満、不安といえば
・彼が愛情表現を全然してくれない
・忙しいこともあって普段の連絡はほとんど一方通行
・会えばすぐに体を求められる
・誕生日や記念日は大切にしない
・デートのドタキャンもよくある・・・等々。
そうした経験が積み重なり、自分が愛されている自信が全然感じられなくなってしまっていました。

「私って彼に依存しすぎですよね・・・」というAさんに彼のことをもっと詳しく教えてもらいました。

彼女の話によれば、彼は異常なほどの仕事人間だそうで、土日もほとんど出勤しているそうです。
出世欲も強く、上司や取引先との付き合いも欠かさず、とにかく仕事、仕事の生活なんだそうです。
(彼女と彼は同じ職場です)

どうも、彼女が彼に依存しているのと同じくらい、彼は仕事に依存しているようですね。

●依存の連鎖

そんな風に“依存”というのは連鎖反応的に起こりやすいものです。

仕事中毒の夫。
→その夫に依存する妻。
→その妻に依存する子ども。

という図式は結構普段から目にする光景かもしれません。

人は少なからず何かに、誰かに依存しなければ生きられない動物です。
だから、依存することが悪いわけではないのですが、要はその程度ですね。

土日も忘れて仕事をしなければいけないとしたら、やがては体を壊してしまいますし、ワーカホリック(仕事中毒)と言われても仕方のないことかもしれません。

いつでも、どこでも、彼のことを考えたり、彼に愛されているのかどうかが不安になってしまうとしたら、仕事や友達と過ごす時間も全然楽しめなくなります。

依存は必要不可欠なものだとしても、それがオーバーワークになってしまっているかどうかは、あなたがどれくらい日常を楽しんでるかで分かります。

こうした連鎖が起きている状況では、関係性はどんどんしんどいものになっていきます。
というのも不安だから、彼にもっと連絡を取ってくれるように要求したり、一緒にいる時間を濃いものにしようと頑張りすぎたりして、どんどん彼への依存度は高まっていきます。
依存される側からすればいわゆる「重たい」「うざい」状態になりますから、ますます何かに逃れたくなります。
それが仕事に向けば仕事中毒になりますし、他の女性に目が移れば浮気性、アルコールならばアルコール依存症のようになっていくわけです。

他方、そうした彼が何かに逃れ、自分に対する自立を高めれば高まるほど、ますます私は不安になりますから、どんどん彼に対する要求は高まるようになり、そして、彼はますます他に逃げ場所を探すようになり、と悪循環が続いていってしまうのです。

●共依存

その彼の依存する先が仕事や他のものではなく、私自身に向かうと、お互いがお互いに依存を強めあう「共依存」の状態になります。

ここでは「依存の競争」と言って、どっちがどっちの面倒を見るか?どっちがどっちの要求を飲むか?という依存のポジションを取り合う争いが生まれます。

例えば「一見自立しているように見えて、病気や経済的な面で彼女に依存したがる彼氏」と「そんな彼の役に立とうと頑張り過ぎる彼女」。

他にイメージしやすい例としては「アルコール依存症の夫と、それを支える妻」「ヒモと風俗嬢」「DV夫と、別れられない妻」などもこの事例である場合が多いです。

ここではお互いの依存を満たすために、お互いを利用しているような関係になり、頑張って頑張っていい関係を作ろうとするのに、逆に関係性がどんどん悪くなってしまうような状況が生まれます。

実際はお互いにそうした自覚は無いのが現実です。
「彼女に頼ってるつもりはない。対人関係がうまく行かず、なかなか仕事が見つからないだけだ」という彼の言い分も必ずしも嘘ではないでしょうし、
「彼は私がいなければダメなの。私しか彼を助けられない」と感じてしまう彼女も、一生懸命彼を愛そうとしてるわけで、それがいけないわけでもないのです。

ただ、それが盲目的になってしまうと、一生懸命やってるのに苦しくなる、相手に対する不安や不満ばかりが増えていく、何らかの恐怖心が心を支配するなどの状況が作り出されていきます。

●自分が決める、という意識

こうした状況は周りの友人や家族から「別れればいいのに」という大合唱を招くこともあり、自分でも時々そう思うことがあるものの、なかなか踏ん切りが付かないのが現実です。
特に周りに反対されるほど、孤立感が高まりますから、「私には彼以外味方がいない」と、ますます依存度が高まってしまうことも少なくないんですね。

どうしてそうなってしまうかというと、こうした依存の背景には「人生の主人公役を彼に明け渡してる」という問題があるようです。

こうした状況に陥っているときは、いつも「彼が○○って言った」「彼が○○をした」などのように「彼」を主語にした会話が大勢を占めることが少なくありませんし、主語が無くなって自分のことなのか、彼のことなのかが分からなくなってしまってること(癒着状態)も少なくありません。

例えば、「昨日、仕事が遅くて連絡出来なかったんですよ」とおっしゃるんで、てっきり彼女自身のことだと思って、
「あなたも仕事が遅くなることがあるんですか?」
ってお聞きしたら、
「え?いや、彼のことですけど・・・。」
って不思議そうな顔をされることもあります。

自分でも分からないうちに、「彼」が主人公のストーリーを描くようになってしまっているようです。

ですから、こうした状況を抜け出すためには「私」という意識がとても大切になっていきます。
もっと言えば「私が決める」という意識を持つことです。

選択肢は彼と私、両方にあります。
いわば、投票用紙が二枚あるんですよね。
でも、いつしか、自分の投票用紙を無くしてしまって、残り一枚を彼が握り締めているような“誤解”をしてしまうことがあります。

共依存状態では、お互いにそう思っていますから、状況を変えようと思って頑張ってるのに、自分には決定権がないように無意識に思ってる分だけ悪循環を繰り返してしまうんです。

もちろん、そう言われてすぐに「分かりました!」て切り替えられるならば、きっとそれほど深く悩みません(笑)
「友達からもそう言われたんですけど」という方もいらっしゃるくらい、自分では「分かっているのにできない」というのがこの問題の根底に流れている一番大きな問題点なのです。

●その背景にある「満たされない心」

そうした依存が連鎖したり、共依存関係になってしまう背景には、お互いの心の中に、埋めようとしてもなかなか埋まることのない“穴”の存在があるのかもしれません。

実は依存の連鎖や共依存の背景には、一種の「代理戦争」のようなものが存在してる場合が多いのです。

例えば、先ほど紹介したAさん。
彼女のお父さんも彼と似たようなタイプで、家族を省みない仕事人間だったようです。
彼女は物心付いた頃からお父さんとは随分と距離が空いてしまっていました。
遊んでもらった記憶も乏しく、未だにまともに話をすることもあまりない状態です。

そうすると、彼女の心の中には、お父さんに満たしてもらえなかった強い寂しさや甘えたい欲求が残ります。
これはとても強くて、古いものなので無意識に抑圧されてしまい、感じられない場合も少なくありません。
「え、そうは思えないんですけど・・・」
とか
「うーん。ピンと来ないなあ・・・」
とか。

でも、結果としてその寂しさや空虚感を満たすために彼に強く依存するようになるんですね。
まるで彼に「この穴を埋めてよ~。ねー、早く寂しさから私を救って」という気持ちです。

そして、実はAさんと同じような穴が彼の心にもあったんですね。
彼のお父さんは暴力とまでは行かないものの、とても厳しく彼を扱ったそうです。
そこで彼もやはり同じような寂しさを強く心の中に溜めていて、仕事にその穴を埋める役割を求めたようです。
(彼はそうしたお父さんとの“権威との葛藤”が元で競争意識が強くなり、出世欲を持って過剰な働き方をしていました)

そうしたお互いの中にある満たされない孤独感が引き合って、なかなか離れられない状況を作り出していたのかもしれません。

さらに深く見ていくと、Aさんとお母さん、彼とお母さんの問題も隠れていました。
どちらも、お父さんに振り向いてもらえない寂しさを持ったお母さんです。
そんなお母さんはAさんに対してよく愚痴をこぼしていたようなんですね。
お母さんが持つそんな依存的な態度から、いつしか彼女はまるで“お母さんのお母さん役”をこなすようになっていたそうです。
彼女が冷たくされても彼に尽くしてしまう背景には、そうしてお母さんを助けてきた過去が影響しているのかもしれません。

また、彼のお母さんはむしろ自分でしたいことをするタイプで、彼を放っておいて仕事や遊びなどに夢中になっていました。
彼の孤独感はここでも強まったようで、さらに自立が強まり、誰にも心を開けない人生を歩むようになっていったのかもしれません。

●癒しのプロセス

そうすると、Aさんの場合は、距離の空いてしまったお父さんとの関係を見つめ直し、心の中のお父さん像を作り変えていくアプローチや、自分に依存してきたお母さん(Aさんとお母さんとの間でも依存の連鎖が見られます)を手放すアプローチが効果的です。
そのためにはお父さん・お母さんの生い立ちにも立ち入って行き、彼らがどうしてそんな風になってしまったのか?どんな痛みを感じているのか?を見つめて、受け入れていくことが癒しと問題解決の効率的な方法に見えました。

そうするとお父さんやお母さんの中にもやはり自分が持っているのと同じくらい大きな孤独感を抱えていて、また、彼ら自身もその両親から愛されてないことに気付けるかもしれません。

Aさん自身もそこに気付いたときに自分自身の見方が変わり始めましたようでした。
意識的にはなかなか許せないものですが、心は徐々にお父さんと向き合い始め、お母さんとの距離を開け始めました。
(そこで、お母さんとは一時的に“反抗期”のような態度を取ってしまうこともありましたが)

お父さんに対しては少しずつ気にかけるようになり、優しさを向けられるようになっていきました。
また別の例では、こうしたアプローチをした結果、久しぶりに会ったお父さんと自然に会話が出来た方もいらっしゃいます。
「許し」というと大層なことのように感じられるのですが、こうしてお父さんと受け入れ、向き合っていくことで、“気が付けば”少しずつ変化が起きてくるものです。

お母さんに対しても、いつも重荷のように感じていた気持ちがほぐれ、彼との関係を相談できるようにまで変化していきました。
(それまでは、お母さんに迷惑がかかる、とか、分かってもらえないだろう、とか思って、彼との関係は内緒にしていました)

●依存の連鎖が崩壊する時~相互依存関係の入り口~

そうして、自分の内面が少しずつほぐれていくと、今度は彼との関係を改めて見つめ直す(選択する)時期がやってきます。

自分の中の孤独感が和らいでいくと、不思議と彼の中のその感情も手放されていくのか、少しずつ彼との関係も変わってきていたんですね。
だから、今度は彼の寂しさを自分自身が助けていくアプローチをお勧めしました。

それは、不安や怖れから起こる補償行為から、愛情と信頼を彼に“与える”やり方へと方法を変えていくことです。

そこでは意識がそれまでと変わっていて、“して欲しいからしてあげる(交換条件)”、“ついつい要求してしまう”という態度から、“してあげたいからしてあげる”、“彼の状況を受け入れ、許してあげる”という気持ちに変わって行きます。

Aさんの場合はご両親との関係を見つめていくうちに、自然とそうした意識の変化が現れ始めまた。

でも、そうした意識で彼に接していくことで、自分自身が余裕を持って彼と向き合えるようになり、徐々に自信を付けていくこともできました。
お母さんという援軍を得たことも大きかったと思います。

そうすると、彼との関係が「彼=自立、私=依存」から少しずつ「彼=依存、私=自立」という逆転現象が出始めたんですね。
彼がちょっと弱さや疲れを彼女の前で見せ始めたり、何かしら頼みごとをするようになったり、ちょっとした変化ですが、でも、今までは考えられないような態度が現れ始めたのです。

それは依存の連鎖が崩れ始めたことを意味するように、徐々に彼が彼女の勧めに応じて休みを取るようになったり、病院に渋々出かけて検査を受けるようになったり(しばらく前から体調の異変を彼が訴えていたんですが、彼は全然病院には行きませんでした)、また彼女に対する愛情表現のようなものも出てきたんです。

そうすると、今度は彼女が彼をリードする形で関係性を変えていくことが出来るようになっていきます。
でも、彼女自身は、そうした相手をリードすることには慣れていませんでしたから、逆に新たな不安や怖れを抱くようになった部分も出てきました。
でも、関係性を変えてきた分自信が付いてきてますから、心配は要りません。
自分を信じて、ただ、してあげたいように、したいようにやっていくだけでうまく行くようになるんです。

それはカウンセリングを受け始めた頃とは、本当にまったく世界が変わってしまっているような状態です。

***

今回は実例をご紹介しつつ、依存の連鎖の原因やそれを解いていくプロセスをご紹介しました。
本文の中でも何度か「彼女の場合は」と紹介しているように、背景やアプローチには個人差があります。
でも、もし今あなたのパートナーシップの問題に少しでもお役に立つところがあれば幸いです。

※Aさんには事前に掲載をご了解頂いて、今回紹介させて頂きました。

この記事を書いたカウンセラー

About Author

退会しました。