カウンセリングに学ぶコミュニケーション~聴き手が主役!~

カウンセリングの手法を応用すると、対人関係に役立つコミュニケーションツールとして使えます。

今回はその中でも聴くことの大切さと、聴き上手になるための秘訣を紹介します。

私達はカウンセラーとしてお客さまからお話を伺うだけでなく、後輩達のためにカウンセリング講座や勉強会などを開催しています。
そうした時によく扱うテーマを応用すると、皆さんが日常のコミュニケーションで生かせる考え方やアプローチがたくさんあるんですね。
もちろん、すべてを紹介すれば、それこそ本が何冊も書けるんですが、今回は要点を絞って、特に役立ちそうなお話をご紹介させていただきたいと思います。

●コミュニケーションの主役は話し手ではなく聴き手。

コミュニケーションに関するご相談でも多いのですが、人と話をするときに皆さんは
「どうやったらうまく話せるだろうか?」
「どうしたらこちらの意志がきちんと伝わるだろうか?」
と感じることってありませんか?
カウンセリングでも「うまく話せるかどうか自信がないのですが・・・」と切り出される方も少なくないですし、それくらい私達は「ちゃんと話すこと」に大変神経を使ってしまっているようです。

ところが、そんな皆さんには意外に思われるかもしれませんが、対人関係におけるコミュニケーションは実は“聴き手”がイニシアチブ(主導権)を握ります。
対人関係では実は話し方よりも聴き方が重要なんです。
コミュニケーションに興味を持って本を読んだりすると、
「話を聴いて欲しければ、あなたがまずは相手の話を聴いてあげること」
「相手に自分を理解してもらいたければ、まずあなたが相手を理解すること」
なんてお話が紹介されていたりします。
これも同じことで、「いかに話すか?」よりも「いかに聴くか?」の方が重要ですよ、ということを教えてくれているわけです。

すぐには信じられないと思いますので、いくつか実例を挙げましょう。

例えば、あなたが誰かに話をしてると思ってくださいね。
そのとき、相手の態度や表情、仕草ってとても気になりませんか?
特にちゃんと分かって欲しい、聴いて欲しいと思っていればいるほど。
もし、相手がちょっとでも余所見したり、つまらなそうな表情をしたら、たちまち不安になって話題を変えたくなるかもしれません。
あるいは「なんやこいつ、人の話もよう聞かんと」と怒りを感じるかもしれません。
逆に相手が一生懸命耳を傾けてくれていたら、あなたはとても話がしやすく、相手に好印象を持ちませんか?

それが講演会やお笑いなど、一方的に演者が話をする場合でも同じなんですね。
ベテランの噺家になると、寄席に上がってその日のお客さんの雰囲気やちょっとした反応を見て、その日の演目を決めるそうです。
つまり、お客さんがその場の流れを決めているんです。

●どう話すか?よりも、どう聴くか?を意識してみよう!

そんな風にコミュニケーションでは聴き手がとても重要なポジションを占めるのです。
だから、いかに上手に話そうとも、あなたが聴き下手だとすると、相手への印象はとても悪いものになってしまいます。
逆にうまく話ができなくても、上手に相手の話を聴いてあげることができれば、あなたはとても好印象を与えることができます。

ある女の子がいました。彼女は恥ずかしがりやであんまり自分から話をするタイプではないし、ましてや笑いを取るのはとても苦手な女性です。
でも、雰囲気がとても柔らかくて、ふん、ふん、と人の話をとても上手に聴くんですね。
だから、彼女と話をしていると、こちらが癒されたり、嬉しくなったりして、思ってもみないことまでたくさん話をしてしまうんです。そして、不思議と心がすっきりするんですね。
そんな女性だから、とても人気があって羨ましいくらい友達がたくさんいるんです。
彼女は「あたしは話もうまくないし、顔だってスタイルだって良くないけれど、友達はほんと素敵な人がいっぱいいて、あたしの自慢なの」とよく言ってました。
「でも、なんでそんな素敵な人たちが私の友達でいてくれるのかは不思議なんだけど・・・」と感じることも多いみたいですが、大人しくてあまり目立たないようで、でも、とても“聴き上手な”彼女はとても大切な存在なんですね。

話が面白い、上手い、というのもいいけれど、一方で、聴き上手というのは、対人関係をより円滑にする魔法の薬のようなものです。
話し方は上達しなくても、聴き方がうまくなれば、自然と繋がりを感じ、広げていく事が出来るんです。

実は“聴く”というのは、女性性的なアプローチで、相手を受容し、理解し、許す行為なんですね。

皆さん、誰かに分かって欲しい、受け入れて欲しい、認めて欲しい、そんな気持ちって少なからずあるでしょう?
聴き上手な人というのは、そうした皆のニーズを満たしてあげることができる、貴重な存在になるのです。
だから、必然的に周りに人が集まってきますし、大切な存在になるのです。

皆さんも今の人間関係をより円滑にしようと感じたときは、人の話をよく聴こうと意識されてみると効果的なケースが少なくありません。
でも、話を聴くというのは、簡単なようでとても難しいんですね。
だから、まずは今皆さんがどんな風に話を聴いてるのか?をチェックするところから始めてみましょう。

●今、あなたはどんな風に人の話を聴いているんだろう?

なかなか自分がどんな聴き方をしているのかを意識する機会って少ないですよね。
だから、改めて自分を見つめる機会と捉えてみてください。

例えば、今耳を済ませてみてください。
誰かの声が聞こえますか?
もし、聞こえたならば、ちょっとその人の話に耳を傾けてみてください。
もし、何も聞こえなければテレビやラジオをつけてみるといいでしょう。
そして、自分がどんな風に人の話を聴いているのか?をチェックしてみましょう。

さて、どれくらいただ聴き続けられるでしょうか?
途中で、別のことを考えてしまったり、「そんなことないのになあ」とか自分の意見や感情を入れてしまったりしてませんでしょうか?
結構純粋に聴くというのはとても難しいことなんですね。

私達が誰かの話を聴く時に、知らないうちにやってしまっているのが「自分の価値観との照合作業」です。
「あ、それ、おかしい、間違ってるよ」
「ああ、それは正しい。その通り。」
「へー、そんな考え方するんだ。俺とは違うな。」
といった感じで、誰もが“自分の価値観”に照らし合わせて相手の話を聴いているんですね。

つまり「自分なりの聴き方」を当たり前のようにしているんです。
もちろん、それが悪いわけではありません。
むしろ、自然なことで、無意識的に誰でもやっていることです。ただ、その事に気付いていれば、無闇に自分の価値観を押し付けることなく、謙虚に耳を傾けやすくなります。

●私の常識=相手の常識?

この価値観に照らし合わせる時は「私の常識は、他人の非常識」「僕の普通は、他人の異常」ということが意外に多いんです。
無意識的に「自分の考え方、価値観は常識的なもので、そうじゃないものは非常識だ」と感じている部分が多いんですね。

例えば、関東に住んでいた人が関西に来てうどんを食べると、「おいおい、汁に色がついてねーじゃねーか。味も薄いしよー。こんなのはうどんじゃねー」と思います。
でも、皆さんもご存知のように関西では薄味が常識なのです。
だから、「うどんの汁は濃くてちょっと甘いのがいいんだ!」なんて主張すると、お店の人とケンカになったりするんです(これを「正しさの争い」と言います)。

こうした味や視覚的なものについてはまだ比較的受け入れやすいのですが、内面的、象徴的なものはとても難しいのです。

例えば、あなたが女性で、彼氏がいるんですが、最近ちょっと連絡が取りにくく、彼の気持ちが分からなくて不安になっていたとしますね。
そこで、友達のA子ちゃんに相談すると「そんなの別の女ができたに決まってるじゃない!」と即答されてしまいました。更に不安になって別の友達のB子ちゃんに相談すると「仕事が忙しいのかもしれないよね。しばらく待ってあげたら」なんてアドバイスされました。

A子ちゃんもB子ちゃんも善意で答えてくれたわけで、悪気があったわけではないのですが、「彼と連絡が取りにくい」という状況に対する常識が二人の間ではまるで別ものだったわけです。

●聴き上手になる秘訣

そんな風に私達は当たり前のように“(自分の)常識”という価値観に沿って生活をしているんですね。

カウンセラーでも、デビューしたての頃は自分の基準、自分の経験を元に話を聴いたり、アドバイスしたりします。
過去に付き合った男性に浮気されて捨てられてボロボロになった経験があれば、同じような状況の話を聴いたときにすぐに「そんなの浮気してるに決まってるじゃん」と答えてしまうんです。

でも、経験を積んでいくと、その人、そのケースによって考え方を変えられるようになります。
彼や彼女の性格、付き合ってから現在までの二人の関係、お互いの仕事や恋愛に対する価値観など、そういう様々な情報を得て初めて「うーん、それはちょっと厳しいかなあ~」とか「いやー、彼の性格だったら嘘つけないから、浮気は難しいよね」なんて答えができます。
つまり、自分の経験と彼女の経験を別物に捉えることができるようになるんですね。

もちろん、カウンセラーではないので、皆さんにそこまで修行してください、なんて言いません。
でも、自分が自分の価値観によって話を聴いていることに気付けば、「それは浮気してるんじゃないかな?」と感じても、「あたしの経験ではさー、そういう時、彼は浮気してたんだよね。あなたの場合ははっきりいえないけれど、そういう可能性も無いとは言えないんじゃない?」と決め付けないで済みますし、柔らかい表現にも心を配れます。

つまり、自分の価値観や常識で聴いている事に気付けば、より謙虚に相手の話を受け入れることができるようになるんです。

だから、誰かと話をしているとき、「ちょっと待った!」と自分の価値観を押し付けていないかどうかをチェックする癖をつけましょう。
「そんなの常識だよな」と思った時に、「果たしてそれは本当に常識なのか?」と意識してみることです。
これは一瞬パニックになってしまいそうなのですが、冷静に見れば、客観的に周りを見つめるきっかけになりますから、謙虚さを身に付けたり、視野を広げ、器を大きくし、懐の深さに繋がるものなのです。

「自分の価値観で聴いてないかな?答えてないかな?」

このチェックをしてみるだけで、あなたは随分聴き上手になっているはずです。
ぜひ、試してみてください。

なお、「あ、自分の価値観押し付けちゃった!」と思ったときには、それを素直に伝えることが大切なコミュニケーションです。
「ごめんね。それ、あたしの価値観だわ。ちょっと押し付けちゃってごめん」
と言えると、それが更にお互いの関係を良くしてくれます。

因みに、「間違いを認め、素直に謝ることができる」というのは確実に信頼を高めてくれます。
「この人は間違った事をしても隠したり、強がったり、誰かのせいにしたりしない、謙虚で素直な人だ」
という印象を与えられるからです。
(とはいえ、何度も同じミスをしたら、逆に信頼度は下がりますが)

ちょっとした意識付けでコミュニケーション力がアップしたり、対人関係が円滑になったりします。
心に余裕がないと行動を変えることは難しいですから、まずは、「やってみよう」と思った時にぜひ試してみてください。
きっと意外な効果に驚かれることだと思いますよ。

この記事を書いたカウンセラー

About Author

退会しました。