裁きの心理~自己攻撃の罠~

自己攻撃をしていると、自分がどんな偉大な事を成し遂げてもそれを正当に評価する事ができません。

そしてその結果、自分自身を一段高い位置に置いて優位に立ち、誰かがやった事や、それをやった誰かを侮蔑したり、自分とそれらの関係を切り離そうとします。
成し遂げた事で感じられるプラスの価値が自己攻撃している事柄で減点されてしまうので、得られると思っていた自分の価値が得られなくなり、自分の価値を自分で格上げして心の均衡を保とうとするのです。

このような状態は、硬直した状況を生み出します。
なぜならば、人や何かを裁けば裁くほど、自分自身を裁いている事になり、その堂々巡りから抜け出せなくなるからです。
この状態から抜け出すには、自分がどんな人や何かを裁いているのか見つめる事です。あなたが裁いているものは、過去の出来事の中の自分自身だからです。そして、人や何かを裁く事を止めると心に決める事です。

◎リクエストを頂きました◎
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兼ねてから自分の包容力のなさをどうしたらいいのかと考えあぐねていたのですが、どうも自分は隠れナルシストらしいという結論に行き着きました。
自己嫌悪には時々陥りますし、自己評価も低いのでそんな考えは及びもしなかったのですが、どうもそのように思えるのです。

ナルシストと言っても自分の容貌に見惚れたり、自己愛性人格障害といったものではなく、より内面的な、思想や精神性といったものの信奉者になっているといった感じでしょうか。
それなりの努力と経験を積んできたのである程度自負できるものはありますが、その為にそれ以下のものには興味が湧きません。

筋金入りの完璧主義も歳を重ねるにつれて随分折り合えるようになりましたが、何事にも質を求めてしまうので、この部分はなかなか変えることができないのです。
どうにかこの状況を打開したいのですが、何か頂けるアドヴァイスはありますでしょうか。
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私たちは自分が成し遂げてきた事を評価し、それを本当に受け取る事ができると、大きな自信を持つ事ができます。そして安心感が生まれ、心にゆとりができ、寛容になって、どんな事に対しても動じなくなり、次のステップへと大きく飛躍して自己実現へと進むことができます。

ところが、心のどこかで過去の自分に捉われ、「悪い自分」や「駄目な自分」といった自己攻撃をしていると、自分がどんなに偉大な事を成し遂げてもそれを正当に評価する事ができず、自信を持つ事ができなくなってしまいます。そしてその結果、自分自身を一段高い位置に置いて優位に立ち、誰かがやった事や、それをやった誰かを侮蔑したり、自分とそれらの関係を切り離そうとします。

例えば、ある人が入学する事が難しい大学の試験を受け、合格したとします。これは、なかなか大変な事だし、よく頑張ったという感じですね。自分に十分な価値を見いだせる出来事のはずです。
しかし、その人が自己攻撃をしていると、自己攻撃をしている度合いだけ難しい大学に入学した価値だけでは不十分と感じるのです。言わば、大学に入学した事で感じられるプラスの価値が自己攻撃している事柄で減点されてしまうのです。

その結果、得られると思っていた自分の価値が得られないので、自分の価値を自分で格上げして心の均衡を保とうとします。そして「あいつは駄目だ」とか「あいつのやった事は不十分だ」と誰かや、誰かがやった何かを裁く事によって自分が優位に立とうとします。あるいは、「あんな事は誰にでもできるさ」とその事を自分から切り離そうとします。

しかし、見方を少し変えてみると、これは誰かや何かを裁いている状態ではなく、自分自身を裁いている状態なのです。
なぜならば、「自分は駄目だ」「自分はまだまだ不十分だ」という感覚がその根底にあり、これはまさしく自分自身に対する裁きにほかならないからです。

心理学の基本的な法則の一つに「投影の法則」という法則があります。
「投影の法則」とは、私たちの心の内側にあるものが自分の外側の世界に映し出されるという重要な法則です。
例えば、「私は仕事ができない」と思っている人は、周りの人達もそう思っているに違いないと感じます。人がどう思っているかは人の気持ちなので分からないのですが、自分が思っている事は人もそう思っていると感じるのです。

この誰かを裁く事も、実は自分を裁いている気持ちが外の世界に投影された一つの形なのです。

戴いたリクエストを拝見すると、ご自身で努力され、経験を積んでこられた自負をお持ちで、頑張ってこられたのだなぁと思いますし、自負を持つ事自体は寧ろとても好ましい事だと思います。
しかし、自分の思想や精神性を信奉され、それ以下のものには興味が湧かない状態というのは、自分の優位性を感じたいための心の動きであり、まさにこの何かを裁いている状態なのです。そしてこの状態は、ご自身が過去に捉われ、自己攻撃を行い、ご自身を裁いている状態でもあるのです。

このような状態は、硬直した状況を生み出してしまいます。
なぜならば、人や何かを裁けば裁くほど、自分自身を裁いている事になり、その堂々巡りから抜け出せなくなるからです。

この状態を抜け出すには、先ずは自分がどんな人や何かを裁いているのか見つめる事です。あなたが裁いているものは、投影の法則を用いれば、過去の出来事の中の自分自身を裁いている事にほかならないからです。
過去のそれは、果たして裁く必要があるものでしょうか?
それを裁く事で、何が手に入るのでしょうか?

そして、次に人や何かを裁く事を止めると心に決める事です。
そうすると、自分自身を裁く事も無くなって、等身大の自分、正当な価値がある自分を受け容れる事ができるようになり、その結果、停滞していた状況から抜け出す事ができます。

(完)

この記事を書いたカウンセラー

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恋愛や夫婦間の問題、家族関係、対人関係、自己変革、ビジネスや転職、お金に関する問題などあらゆるジャンルを得意とする。 どんなご相談にも全力投球で臨み、理論的側面と感覚的側面を駆使し、また豊富な社会経験をベースとして分かりやすく優しい語り口で問題解決へと導く。日本心理学会認定心理士。