不信感~人を信じられない痛み~

人や誰かを信じられないとき、私達はとても心に痛みを感じてしまいます。そんな自分を見つめるヒントをご紹介。

何かのきっかけが元で、人を信じられなくなってしまうことがあります。
そういう方の場合、カウンセリングを受ける時にもすごく勇気がいるんですよね。
カウンセリングというのは、お客さまとの信頼関係が第一ですから、このカウンセラーを信じていいのかどうか、すごく迷ってしまうようで。

対象が“人”じゃなくても、男、女、彼、親、友達、上司、部下など限定してみたら、案外多くの人がそんな不信感を誰かに対して持ってしまっているのかもしれません。

不信感があると、その人を疑ってかかってしまいますし、一度感じてしまうとなかなかぬぐうことの出来ないものでもありますよね。
カウンセリングの中でも「○○年前の主人の不貞が許せなくて、ずっと信じられないんです」とおっしゃる方もいらっしゃいます。

不信感の目的・役割

どんな感情にもそれを感じる目的があるんですよね。
不信感にはどんな目的があるかというと、一つ目は「心が二度と傷つかないように守るため」ですね。
(罪悪感、無価値感、無力感などのネガティブな感情の多くはこの目的を持っているのかもしれません。)

「裏切られたり、いじめられたりして、すごく傷ついてしまった。もうこんな痛い思いはしたくない」と思った時に、その人に対して不信感を持ちます。
たくさんの人に傷つけられた、と思えば、人全体を信じられなくなってしまいます。
昔付き合っていた彼に裏切られて傷ついたとしたら、男性を信じられなくなってしまいます。

そして、不信感を持った分だけ、その人に近づきませんから、自分自身の心は守られますよね。

ところが、この不信感を抱えていると、その強さの分だけ、人と分離してしまいます。
この人との繋がりが切れてしまっているような感情を“分離感”というんですが、不信感があれば、たいてい分離感もセットでついてきます。

そして、人から分離してしまえば、孤独感や寂しさを感じることとなり、自分はまるで宇宙空間に一人ぼっち・・・なんて強烈な感情を感じてしまうこともあります。

だから、その内側に隠されている「痛み」を癒していくことがカウンセリングでは主なアプローチになります。

「そんなことできるの?」って思われるかもしれませんが、人を信じたい気持ち、痛みを癒したい気持ちがあれば、その多くは達成されるものでもあります。
でも、この気持ちを持つことが一番難しかったりします。

なぜかというと不信感の二つ目の目的が「復讐心」だからなんですね。
復讐というと怖いことのように聞こえますが、その人(達)を信じないことによって、いつまでも痛みやそこから生まれる恨み辛み、憎しみを持ち続けることになります。

誰かに「あなたのことが信用できない」と言われたら、「そう?嬉しいわ!」なんて思う人っていないと思うんですよね。
たいていは、それはそれで落ち込んだり、傷ついてしまったりすると思うんです。
そうして復讐心が満たされていくのかもしれません。

ただ、この方法は自分自身の首を締め続け、罪悪感などの副産物を作り出すものですので、信じたい気持ちを持って乗り越えていきたいものです。

同時にこの不信感にもポジティブな目的が隠れているんですが、それは最後の方で改めてご紹介しましょう。

不信感が生まれる要因1(いじめ)

いくつか既にさらっと紹介してしまっているものもありますが、カウンセリングの中でよく出てくるのが小学生、中学生の頃に受けたいじめの痛みです。
クラス全員から無視されたり、あからさまに悪口を言われたりすると、当然のように心はばらばらになってしまいます。
その時助けを求めた先生にも相手にされなかったり、また、迷惑をかけたくないと家族にも言えない例も多く、そのばらばらになったハートをひとりで抱えたまま大人になってしまう場合も少なく無いですね。

しかも、酷いいじめを受ければ受けるほど、その後も、人と接するのが怖くなって、避けがちになりますから、なかなか対人関係を学ぶ機会からも遠ざかってしまいます。
そして、大人になってからその対人関係に大きな悩みを持つようにもなるんです。

カウンセリングの中で、その痛みに触れていくと、本当に悲痛なほどの苦しみや悲しみ、寂しさが出てくることも少なく無いんです。
共鳴してくるその感情の強さに僕の方が思わずもらい泣きしてしまうこともあれば、モウレツな怒りを感じてしまうこともあるくらいです。

いじめの痛みも、周りの大人やその後に出会う友人、恋人によって癒されていくケースも少なくないと思いますが、深く心の奥底にこびりついてしまっている場合もありますね。

お客さまによって色々なセラピーの方法が考えられるのですが、その出来事を客観的に再体験して心の痛みを解放して行ったり、その後の対人関係で抑圧してしまった気持ちを一つ一つコミュニケーションしていく方法などを良く使いますね。

不信感が生まれる要因2(失恋)

失恋の痛みもまた、不信感を招くことが少なくありません。
愛情が無くなって別れた場合はもちろんですが、別の異性に走られたり、自分の友達とくっついたり、また、親や第三者によって引き裂かれたりすると、不信感を感じる対象もどんどん広がってしまうようです。

特に失恋を重ねていくと、恋愛そのものに臆病になってしまいますし、異性をなかなか信じられなくなるので、今度は恋する気持ちも沸かなくなってしまいます。
よく20代後半から30代前半の女性が恋愛がうまくいかない、とご相談に来られることが多いのですが、本人も忘れているくらい昔の失恋が尾を引いてしまっていることも少なくないようです。

お客さま本人としては、今の自分、今の恋愛を見つめていらっしゃるわけですから、ちょっと意外な落とし穴になっていることもありますね。

この場合には、そのきっかけとなった失恋を見つめなおして、改めてその恋愛を手放していく方法や、その彼を許し、自分を許すセラピーなどを提案することが多いですね。

不信感が生まれる要因3(自己嫌悪)

いじめや失恋の他にも対人関係の中で出来た痛みが人への不信感を作るものなのですが、そういったことが直接関わらなくても、漠然とした不信感を抱いてしまうことがあるんですよね。
「何となく人を信じられない」
「本当は誰のことも信じていない」
そんな感覚を持つようです。

それが自己嫌悪、というか、自己不信に陥っている場合です。
例えば、何かいつも失敗ばかりしている自分がいて自信が持てず、強い自己嫌悪を持ってしまうと、自分自身のことも信じられなくなってしまいます。

それが周りの人に投影されるので「こんな私、きっとみんな嫌いに違いない」と感じて、それが対人関係の中での不信感を生み出す要因になります。

実は、いじめや失恋の場合も、少なからずこの自己嫌悪が絡んでいる場合も少なく無いんですよね。
いじめられた自分が悪い、振られた自分が悪い、と人は心のどこかで自分自身を責めてしまうものです。

許しのレクチャーもありましたが、他人を許せないと自分のこともなかなか許すことができないため、この自己嫌悪による不信感は根深い思いとして残ることが少なくないのかもしれないですね。

不信感を癒す

カウンセリングというのは先ほど書いたように信頼関係が基本中の基本ですから、カウンセラーに対して信頼を抱けるようになれば、それが突破口となって、不信感が徐々に払拭されていくことが多いようです。

ただ、その信頼関係を築くまでがけっこう大変だったりして、非常に気を遣いながら「こんなことして、嫌になりませんか?」とか「本当にすいませんが・・・」とおっしゃって下さるんですよね。
また、その一方で攻撃的な態度に出てしまわれる方もいて、痛みの強さを実感させられるときも少なくありません。

でも、不信感を何とかしたい・・・と思われている方は、とても人への配慮が上手だったりするんです。
面談後に感想やその後の様子をメールなどでご報告いただくのですが、特に丁寧に、慎重に言葉を選ばれてメールを書かれているのが手に取るように分かったりしますし、面談で再会したときにも「また、お時間取らせて申し訳ありません」みたいなことをおっしゃってくださる方もいます。

少し過剰なこともあるのですが、人への気遣い、優しさ、思いやりには自信を持って、誇りを持っていいんじゃないかと思うんです。
特に信頼関係が築けた後は、本当に痒いところに手が届く配慮をいつもしてくださって、僕の方が教えて頂くことも少なくないくらいです。

もちろん、これにも理由があって、不信感があると相手の人をとてもよく観察します。
それは態度だけじゃなくて、その言葉や感情にも深く踏み込んで観察してたりします。
「この人は大丈夫だろうか?」という思いを持つからなんですが、これがこの長所を作り出す要因なのかもしれません。

最初の方に、不信感の目的を二つ紹介しましたが、どんな感情にもネガティブな目的だけでなく、ポジティブな目的を持つんですね。
そして、癒された後でも、このポジティブな目的は長所としてバランスよく残るものでもあるんです。

また、何かのきっかけで良好な人間関係が築かれていくと、その輪の中でその不信感は癒されていきます。
ですから、グループセラピーに参加してみることが手っ取り早い方法なのかもしれませんね。
面談の中でも、何度かカウンセリングが進んで僕との信頼関係が築けてきたときに、グループセラピーをお勧めすることがあります。

人との関わりの中で生まれたのが心の痛みであり、不信感ですから、やはり人との関わりの中でそれは癒されていくようです。
カウンセリングというのは、ある意味、そのための安全な空間を提供している場なのかもしれないですね。

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