苦くて幸せな記憶。

■12月。街がクリスマスイルミネーションで彩られるこの季節になると、僕にとっていつも思い出すことがあるんです。
今から12年前・・・。
とある駅近く。カフェの一角。そこにはただ一点を見つめて呆然とする僕がいました。
耳元で流れるラウンジと呼ばれる音楽。
その当時の彼女が好きだったひどくお洒落な音楽を聴きながら、ただ目の前を流れる街を眺めている僕。
街はクリスマスムード一色。楽しそうな恋人たちが溢れる街の片隅で、僕は言葉に出来ない空しさを感じていたんです。
その当時の僕はまだ学生で、ただ毎日を快楽的に過ごしては、後ろから襲ってくる漠然とした空しさから逃げ延びる毎日。彼女と呼べる人はいたけれど・・・でもそれは昨日までの話。
「サヨナラ。」
その言葉にただ呆然とするだけでした。
その言葉の意味は徐々に痛みとなって効きはじめ。いつの間にかどこか自分の未来までも蝕み、これからどう生きていこうか?という壮大な学生の苦悩を刺激したものです。
その時見上げた透明な夜空は、とても冷たく見えたことを今でもよく覚えています。
■そして、今から3年前・・・。
とある駅近く。カフェの一角。ただ一点を見つめてまどろむ僕。耳元で流れるのはクラブジャズ。
この10年でどこか変わってしまった街並みを眺めながら、手元のコーヒーカップを引き寄せてみる。
・・・それまでの僕は何故か遠距離恋愛ばかりしていました。
そして何度もダメになる恋愛を目の前にして、訳のわからない不安に襲われ、いつしか自信を失っていたんですね。
自分なりに頑張ってるつもり。けど上手く行かないことの連続でどうしたらいいか、途方にくれていたんです。
女性には優しく!だから、とことん彼女に優しくしたこともありました。
男は強さだ!だから、目いっぱい背伸びをしていたこともありましたっけ。
でも、上手く行かない・・・。
今となってはその理由が分かるけれど、かつての僕はそんな経験をするたびに自信を失っていきました。
励ましてくれる友人の声も、僕には届かず。いつも一人で悩んでは、忘れるための努力だけは惜しまぬ毎日。そんなにカッコいいもんじゃありません。ただ痛くて辛くて必死だっただけなんです。
だからもう遠距離恋愛はコリゴリ。そう誓ったはずなのに、それでもまた同じことを続ける自分がいて、ホント「懲りないヤツ」と自分自身思っていましたっけ。
しかし、今回ばかりは違ったんですよね。
その彼女とは遠距離恋愛でしたが何故か長く続いた。それはいろんな人の応援があったということも大きいけれど、何よりの違いは・・・2人が同じ距離だけ詰めていたこと。
「またダメになるかも・・・」
そんな心の声が聞こえても、2人が諦めずに会おうとしていたこと。不安よりも信頼が大きくなった、そんな感覚がずっとあったんですよね。
■カフェの中から雑踏の中に彼女を見つけ、目で追う僕。
10年前の自分には想像できなかった未来。あの時の僕に今を見せたとしたらどんな顔をするだろうか?
そんな独りよがりな空想を抱きながら、コーヒーを少し口にしてみる。熱ちっ・。軽く火傷する。
大きく息をついてみる。微妙にムセる・・・。
ん~。とにかく落ち着かない・・・。
いつも通り、待ち合わせの場所に来る彼女。
「待った?」彼女の決まり台詞。
「いや、待ってないよ。」僕の決まり台詞。
そんな予定調和から、他愛もない雑談が始まり・・・一気にコーヒーを飲み干す僕。
いつもと違う僕に気付いているのか?それとも分からないのか?平然とアールグレイを飲む彼女。
・・・ぐっと拳を握り締め、緊張で空気が読めなくなった僕は、いきなりこう切り出します。
「ねぇ・・・そろそろ、一緒に住まない?」
不器用極まりない僕の言葉に、彼女は驚いた顔一つ見せず
「いいよ」
笑顔でこう答えてくれました。
■12月になるといつも思い出すこと。
それはとても苦い記憶と同じ場所にある、とても不器用で幸せな記憶。
その数ヵ月後、僕たちは夫婦になるんです。
そして今、僕の横ですやすやと寝息を立てている妻。
彼女があの時、どんな想いで僕の言葉を聞いていたのか?は分からないけれど。
僕が今、見上げる透明な夜空は、とても温かく見えるのでした。
浅野寿和のプロフィールへ>>>

この記事を書いたカウンセラー

About Author

年間400件以上の面談カウンセリングを行う実践派。「男女関係向上・男性心理分析」「自信・自己価値向上」に独特の強みをもち、ビジネス・ライフワーク発見なども対応。明快・明晰かつ、ユーモアと温かさを忘れない屈託のないカウンセリングは「一度利用するとクセになる」と評され、お客様の笑顔が絶えない。