32年目に知った母

娘が生まれて1月とちょっと経ったある日、お宮参りに行ってきました。
朝からバタバタと準備をし、駅へ向かいました。
待ち合わせをしていたのです。
待ち合わせをしていたのは僕の母。忙しい中都合をつけてくれて、一緒にお参りすることになっていたのです。
待ち合わせ場所で落ち合った後、そこからすぐ近くの神社に向かいました。
その短い時間に、母はもう孫に夢中です。
寝てるだの起きただのとはしゃいでいたのでありました。
「こんなにはしゃぐんだ~」と、はしゃぐ母の姿を見て、新鮮というか、少し意外な感じがしました。
神社に到着してご祈祷をしてもらうまでの間、待合室で少し待つことになり、そこで母が娘を抱いてあやしていました。
その姿を見て、僕はびっくりしました。
母が娘を抱く時、なんだかおっかなびっくりな様子だったのです。
そして、母の腕の中で娘が少しグズり出すと、あわててこう言うのです。
「ごめんね~、ママと抱き方が違うから嫌なのかな~、ごめんね~」
その様子とその言葉を聞いて、びっくりしました。
何にびっくりしたかというと、僕の知らない母の姿を見たことにびっくりしたのです。
僕の中では、2人も子供を育て上げたのだから、赤ちゃんの扱いなんて余裕しゃくしゃくで、少々グズろうが泣きわめこうが、そんなものはどこふく風で涼しい顔をしているのが、母だと思っていました。
ところが、実際はそうではありませんでした。
そのギャップにびっくりしたのです。
まぁ、生まれたての赤ちゃんを抱くのはおそらく僕が赤ちゃんの時以来ですから、30年くらいはブランクがあるわけで、おっかなびっくりになる無理もないのかなぁと思うのですが、その姿が、本当に意外だったのです。
その意外さに戸惑いつつ思い返してみると、僕の中の母というのは、何でもできて、間違いや失敗をすることもなくて、どんなことにも動じず、絶対的に正しい、まるでスーパーマンのような人だと思っていることに気がつきました。
でも、母は人間なんですよね。
怖いこともあれば困ることもあれば「ごめんね~」と思うこともあるんですよね。
そして、思ったんです。
「2人の子供を育て上げた経験があるにもかかわらず、こんなふうにおっかなびっくりだったりあわてたりするんだとしたら、その経験がない兄や僕を抱く昔の母は、どうだったんだろう?」と。
新米ママの母が、初めてのことやわからないことだらけの中で一生懸命頑張っている姿が想像されました。
そして、うれしそうに孫を抱いている母を見て、思ったんです。
「あ~、こんな顔して僕のことを見ててくれたのかな?」って。
もちろん僕は覚えていないけれど、僕がジタバタしてるだけの赤ちゃんの頃、おっかなびっくりでぎこちなかったかもしれないけれど、それでも一生懸命大切に大切に大切に大切に大切にしてくれていたんだな~ というのを感じて、胸の奥の方が熱くなったのでした。
これまで「お母さんなんだから!」と思っていたあのお母さんとは違うお母さん。
32年前に、こんな様子でこんな顔をして僕を見てくれていたお母さん。
それが32年目に知った、母の姿なのでした。

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