癒着の心理学1~接着剤付き人間関係~

癒着って??これを手放すことであなたの心を無限に自由にしていきましょう。

「癒着」という言葉を聞くと、企業間だったり官と民、政治家と支援団体などのどす黒い関係を思い浮かべるかもしれません。あるいは火傷や病気などで患部が引っ付いてしまうこともいいますね。どちらにせよ、あまりいい意味ではありません。

今日は人間関係における癒着のお話です。
これもやっぱりあんまりいい意味ばかりではありません。
むしろ、とてもしんどい思いを生み出す元になり得るものだったりもします。

罪と罰の心理学~罪悪感~」でもちょっと癒着のお話をしました。
今日はその続きです。

母子癒着という現象

最近では「母子癒着」というお話も耳にすることが多くなりました。
特に日本ではこの傾向をもつ親子は多いみたいですね。

「お腹を痛めた子だから」と母親が子どもに対して抱く感情は並ならぬものがあります。
実際に自分の体の中にいたわけですし、自分の子どもが自分の分身のように感じられることも多いでしょう。それ以上の愛情を子どもに感じるときだってあるかもしれません。
この感情の多くは母親の大きな愛から産まれます。いわゆる『無償の愛』の部分です。
無意識的には「グレートマザー」という元型(アーキタイプ)が目覚めるところです。

その赤ちゃんも成長していくとやがて自我を持ち始め、自立をはじめます。
そうすると「自分ですること」を覚え始め、幼稚園や保育園など“家”を離れて生活する時間も増えていきます。
この頃から母親としては、子どもを手放していくプロセスが必要になってきますね。自分のものではなく、一人の人格を認めていく年頃になるわけです。

でも、なかなかその手放しがうまく行かないと、必要以上に子どもに張りついてしまいます。まだまだ面倒を見てあげなければならない年頃でもあるだけになかなかそのバランスが難しいところですね。そんな葛藤を抱えられたお母さんも多いんじゃないでしょうか。
そういう状況にあると子どもがテストで悪い点数を取って来たりすると、まるで自分自身が否定されたように感じてしまいます。
そうすると子どもの宿題を取りあげてお母さん自身が自分で解き始めることも起こります 。
子どもと自分自身の境界が分からなくなってしまうんですね。

癒着とは?

そんな風に、誰かと自分の境目がわからなくなってしまい、相手の感じている感情を自分のものと感じてしまったり、相手を一人の人間として認められずに自分として扱ってしまう状態のことを『癒着』といいます。
それはまるで接着剤で二人をくっ付けてしまったような状態になります。
この癒着のパターンを持っていると、恋愛でも友人関係でもそのパターンが出てきます。
大好きな彼氏・彼女と一時も離れたくない!って思って接着剤で二人をくっつけてしまったと思ってください。
確かにいつも一緒です。出かけるときも、寝るときも、ご飯を食べるときも。
ところが、あなたが女性だとして生理が始まっても、トイレに行くときも一緒というのはどうでしょう?
元気なときは良いけれど、どちらかが病気になったり、疲れてへとへとになったときはどうでしょう?
ちょっと苦しいですね・・・。
最初はいいかもしれないけど、だんだんうっとおしく、しんどい関係になってしまいます 。

通常の関係では二人の距離感はフレキシブルですから、広がったり、近づいたりできます 。
だから、しんどいなあ・・・一人になりたいなあ・・・と思ったときは自由に距離を保てるわけです。

ところが癒着の関係があると、一人になりたいなあ、と思っても簡単には行きません。
接着剤がついてるわけですから、ちょっとやそっとの力をかけたくらいではびくともしません。だから、それを離そうとしたらお互いにものすごい痛みを伴うようになります。

そうすると恋愛ならば別れるときに酷く泥沼化してへとへとになり、別れてからは連絡も一切取り合わないような関係になってしまいます。
ちょうど思いっきり力をかけて剥がしたために、ぴゅーんと体が飛んで行ってしまうようなものです。わかれた後には二人の間に大きな距離が空いてしまうわけです。
せっかく愛情を交し合った仲なのにもったいないですよね。

潜在意識での癒着

癒着のパターンを作るのは母子癒着がほとんどなのですが、先に紹介したような表面に見える癒着(実際にお母さんとべたべたしてた)の関係ではなく、潜在意識にもぐっている癒着のパターンも実はあります。

どちらかというとこのパターンを持つほうが意識レベルでは全然違うことを考えているだけに自分自身でも受け入れられず、なかなかハードなんですね。
こちらの方の癒着には当人同士の間に「憎しみ」「恨み・辛み」の感情があるのが特徴です。

僕自身の臨床経験から「自分は母親から十分に面倒を見てもらってない」と感じてらっしゃる方の多くがこのパターンに当てはまるような気がします。

例えば、仕事が忙しかったり、子育てに無関心なお母さんだったとします。
そうすると甘えたいけど甘えられない状況が子どもには与えられるわけです。
でも、小さい子どもにとっては「お母さんに甘えること」というのは言わば自然な欲求ですから、我慢しようとしてもなかなか出来るものではありません。
だから、思いっきり力を入れてその感情を抑圧するわけです。

そのときには「甘えてはダメだ」と禁止を使うことが多いんです。
甘えたいのに甘えられないという気持ちは寂しいし、惨めなので感じたくありません。
だから、禁止することでその感情もろもろを封印してしまうわけです。
(禁止するとどうなるか?というお話は「タブーの心理学」でお話しましたね)
封印してしまうために、その感情は心の中にずっと留まり続けることになります。
これがポイントです。

こうして心の中に封印することで、「甘えたい」という気持ちでお母さんと繋がるのではなく、「甘えてはいけない」という反対の気持ちを使ってお母さんと繋がろうとします。(ここでの心理描写は「好きと嫌いの心理学」を参照してください)

表面上的に繋がりが得られない分、心の中に理想のお母さん像を作って、そのお母さんと癒着するわけです。(だから、このパターンを持つ方は「母親とはこうすべき、ああすべき」という観念を多数お持ちな場合が多いんです)

その結果、表面的には手のかからないいい子になります。
感情を抑圧してしまってる分、思考が発達しますから、歳の割には大人な「おませな子」になるケースも多いようです。

でも、その心の内には“常に甘えられる存在を探してしまう”パターンが意識的・無意識的に備わりますし、一方では“甘えさせてくれなかった”ことへの怒り・恨み・憎しみのような感情を深く持っていたりします。

そうすると恋人が出来たときに最初は警戒モードで大人しくしていることも多いのですが、一旦自分の中で許可が下りると今まで満たされなかったすべての欲求を満たそうと強い依存の感情が表れます。それはまるで接着剤を付けて相手に飛びかかるようなもので、『蜘蛛女・蜘蛛男』なんて呼ぶことがあるくらいです。

でも、恋人は本当の親ではないし、恋愛をするくらい自分自身も大人になっているためにその欲求のすべてが満たされることはありません。
そもそも欲求というのは、朝ご飯を食べても昼にはお腹が空くように限りないものですから、どれだけ甘えても、どれだけ満たしてもらっても「もっと、もっと」という気持ちはなくならないんですね。

それもあって心の中には「お母さんがそうだったようにいつか捨てられるのではないか?」という不安や恐れが強く渦巻いています。
お化け屋敷に入ったときに怖いから一緒にいる人の腕をしっかりつかんでしまうように、この不安や恐れがまた癒着の強度を増していきます。
それが悪循環となってしまうために、ますます大量の接着剤を必要としてしまうのです。

癒着の手放し方

多少の違いはあれ、ほとんどの方にこのパターンが見うけられます。
だから、必然的にどうしたら手放していけるのか?というのは我々カウンセラーにとっては大きな研究課題となってきました。

長年のパターンがあるわけですから、今日・明日に手放せるものではありません。
と同時に、皆さんが大人になるに連れて、自然と癒される部分も少なからずあります。
恋愛で全てとは言わなくても満たされる部分があったとしたら、癒しも体験できるでしょう。

また、大人になれば社会性を自然と持つようになりますので、その中でその思いを消化していくことも出来ますし、もし自分が親になったとしたら、満たされなかった頃の子どもが目の前にいるように感じ、その子を育てることで手放していくこともできます。

癒着のパターンを手放すカギとなるのが『許し』です。
それは母子癒着が起因するのであれば母親を、他の誰かであればその人を心から許すことが最大の目標になります。
自分が母親になったときに初めてお母さんの気持ちが分かった・・・という声を聞いたこともあるかもしれません。お母さんの気持ちを受け入れ、許しが始まったのかもしれませんね。

ただ、「許し」というのはすぐには難しいのはもちろんで、僕たちのアプローチとしてはまずはその蓋のようになっている怒りを処理する事からはじめます。
実際にお母さんへの怒りを感じ、表現して流していくんです。

ただ、ここでは一時的にせよ、母親への怒りが爆発して関係が悪化することもありますし、今ある人間関係のすべてに嫌悪感を覚えたりします。
でも、これは良い兆候です。ここでその怒りや不快感に惑わされずに前に進むことが一番大切になってくるんです。

怒りを処理するとその中からは、愛情に飢えている幼い男の子・女の子が顔を出すことがあります。それは甘えられなかった自分自身の姿かもしれません。
この時期には自分がまるで幼い子供に帰ってしまったような感覚を覚えることも多くあるんですね。
だから、ここが一番肝心です。

ここでその幼い子どもの自分を自分自身でケアすることを提案しています。
この子どもを長い間お母さんなり、恋人なり、誰かに面倒見てもらおうとしてきたのが癒着の根っこにある気持ちかもしれません。
でも、それで解決してきたでしょうか?
実はこの取り残された子どもの部分をまずは大人になった今の自分と繋げてあげる必要があるんです。この部分が抜けてしまうとその子は心の中を再びさ迷いつづけることになります。
幼い頃、抑圧して切り離してしまった感情としてその子が存在しているわけです。
だから、自分自身がその子を愛してあげる事が一番大切なのです。

実はこのプロセスが第2回目の講座で紹介したインナーチャイルドワークと呼ばれるものです。

そして、その子どもと繋がった後にようやく母親を許す準備が出来ました。
その子どもとの繋がりを感じ、愛したときに、初めてお母さんの心ともつながりを持つことができるのです。
お母さんの当時を、今の大人になった自分の目から見返していきます。
そうすると自然とお母さんの気持ちも理解できるでしょう。
家族を守るために必死だった事、お母さん自身の心の痛みなどに気付けるかもしれません。お母さんというのは「母」「妻」「女」の3つの顔を持っています。そのバランスに苦しんでいらっしゃったのかもしれません。
お子さんがいらっしゃる方は、自分が子どもを育てていく自信はあったでしょうか?
多くのお母さんは最初から育児のプロではありませんよね。
どうしていいのか分からずに戸惑い、不安に駆られながらの子育てだったのかもしれません。
子どもの頃には理解できなかったその事が、大人になった今なら十分に理解できるでしょう。

そこで初めてお母さんを許すことが出来るのです。

日常にて

カウンセリングの現場ではそんなセラピーもあるのですが、日常生活の中ではどんなことをしていけばいいのでしょうか。

一つは自分自身の心の中に癒着を作る原因となっている“甘えられなかった自分”を探してみることです。そして、その子と話をしたり、イメージを使って触れ合ったりして、繋がろうとしてみてください。
そして、その子と仲良くなってみてください。

二つ目はお手紙大作戦。
手紙という手法は僕たちがとてもよく利用する方法なのですが、ここでは2通のお手紙を書いていただけたらと思います。
一つは昔の自分宛。もう一つはお母さんないしは現在・過去のパートナー宛。
もちろん、切手を貼る必要はありません。
その時々の自分の気持ちをただ言葉にして表して見てください。
これは一つ目の方法を視覚化する方法ともいえますね。

終わりに

癒着を作るパターンって実は他にもあって、罪悪感の補償行為や漠然とした不安感や恐れが原因となることもあります。
今回は一番一般的な母子癒着の関係を中心にお話しましたが、癒着というのは「状態」ですので、如何様にも自分で変えて行くことができる、というのがポイントです。

癒着を手放したとき、あなたは自分自身の心に無限の自由を感じられることと思います。
がんばって下さいね!

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