“平和主義者”の心理~争いや揉め事を避けたい心~

私達はみんなどこかで争いを避けようとしています。

でも、それが無価値感や怖れから来る場合、自分の気持ちを抑え、人間関係に大きな影響を与えるようになります。本当の平和を自分の心に作るように、自分を見つめなおしてみましょう。

●平和主義者とは?

心理学的に言う平和主義者とは、嫌われるのが怖くて争いや揉め事を避けることを目的に、自分の気持ちを抑圧したり、考えを引っ込めてしまうパターンを持つ人を指します。
「私さえ我慢すれば・・・」
といつも周りの人の顔色を伺い、争いを避けていることが多いので、いつしか自分自身を見失い、素直な気持ちが分からなくなる事も少なくありません。
いつも怯えて周りを見回してしまうかもしれないし、行動を起すときに周りの目線が気になって身動きが取れなくなってしまうこともあります。
そうして、人との争いを起こさないように心の内側に封印してしまうと、それが全部心の中でぐるぐる回ってしまい、常に自己嫌悪に苛まれることもあります。

いわば人に対して向かう怒りが自分に向かってしまうんですね。
嫌われたくないし、怒らせて関係をややこしくしたり、場の空気を乱してしまうくらいならば、自分さえ我慢すれば・・・と抑えてしまうんですね。

それが皆の幸せや平和を願ってのことならばあまり問題は無いんです。
でも、それが程度を超えてしまうと、今度は
「そういう風に怒りを感じるのは自分が未熟なせいだ」
とか
「こんな気持ちになってしまう自分がダメなんだ」
と強い自己嫌悪を伴うようになります。
本当に力づくで自分の気持ちを押さえ込むような感じです。

それが必ずしも間違っているわけではないのですが、そういう自己嫌悪で感情を封印することは、常に自分で自分を傷つけてしまうことにもなります。
それは本当にしんどいことで、苦しいことだけれど、かといって外に向かわせることもできないし、と思い、どんどん辛い気持ちが重なってしまうようになります。

そうすると例えば部下に対しても叱れない上司になり、また、対等な関係性を持つはずのパートナーや友達に対しても我慢するばかりで、苦言を呈することができなくなるんですね。
もちろん、最近言われる子供を叱れない親もこのパターンがあります。
それくらい嫌われることや揉め事が怖く、争いを避けるためなら何でもしてしまう、そんな悲しみがあるんです。

こういう葛藤が長年続くと、その関係性だけでなく、何に対しても燃え尽きてしまい、強い疲労感を持つようになります。
中には病気になってしまう人もいて、その際も、病気と「闘う」意志よりも、諦めが心を支配してしまったりもするのです。

●心の底にある究極の“無価値感”???

でも、どうして平和主義になってしまうのか?というと、感情を出す事で嫌われるのではないか?自分が煙たがられるのではないか?という怖れ(無価値感)が隠れていることが多いようです。

無価値感というのは、一言で言えば「自分は愛される価値などない」という感情です。
だから、“人から嫌われないためには何かしなくちゃいけない”という補償行為をとるようになるんですね。
つまり、行動の多くが「怖れ」をベースにしたものになってしまうんです。

怒りを出せなくて平和主義になってしまうのも、人から嫌われる怖れがあってのこと。
でも、逆に言えば、それくらい平和主義者は人間が大好きなんですね。
大好きな“人”を傷つけたくない、困らせたくない、と自分ひとりで抱え込むようなものかもしれません。

そうやって相手を守ろうとするのですが、でも、それは自分自身が犠牲になった上で成り立つもので、たとえ問題と感じる点があっても、自分自身のせいにして感情を押さえ込んでしまいます。
そして、我慢の限界が来るとはっきり相手に文句を言うのではなく、静かに退却するんです。
自然消滅というか、切り捨てるというか。
だから、相手の人からすれば、どうしてそうなったのかが分からないことが多いんですね。
それでは自分のためにも、相手のためにもならないんです。
それが分かっていても、怒ることができない、感情を出せない場合も少なくないのですが、自分でもそうと思い当たる原因が分からない場合には、やはりあなたの育ってきた環境が大きく影響しているのでしょう。

その典型が、私達にとって当時最大の恐怖だった「両親のケンカ」です。

●両親の葛藤(ケンカ)を目の当たりに?

こうした平和主義に陥るのは、両親の不仲を目撃してきたケースが多いようです。
ケンカばかりする両親を見るのは、子供としてほんとうに辛いことで、それこそ、ハートがつぶれてしまいそうな衝撃を受けています。
両親がケンカしているのを知りながら、布団の中で恐怖に震えながら早く収まるのを待っていた経験を持つ方も少なくないでしょう。

そうしたフォローをきちんとしてくれる両親なんて滅多にいないですし、むしろ、それが自分自身に飛び火して怒られたりすることもあって、「もうケンカは嫌だ」「自分の子供にはこんな思いをさせたくない」という思いを持つようになります。
そうした経験が、人との争いや揉め事に非常に神経を尖らせるようになるんですね。

ただ、子供の世界で感じる親のケンカと、大人になった現在のあなたが見るケンカはまた違うものだと思います。

例えば、小さい頃ずっと両親が仲が悪く、お母さんから愚痴を聞かされながら育ってきて、「早く離婚すればいいのに」と思ってた方も少なくないと思います。
でも、あなたが大人になった今も、両親は離婚しなくて、かといって仲が良いわけでもなく、そんな両親に疑問に感じられる方もいらっしゃるでしょう。
そんなとき大人の目線でもう一度両親を見つめなおすと、また新たな見解が手に入ることがあります。

例えば、両親にとってはケンカがほとんど唯一のコミュニケーションツールだったということ。
もちろん、ケンカというのはとてもリスクの高い方法ではありますが、そうしてお互いの意思疎通を図っていたり、感情を解放して癒しあっていたりする場合も実はあるんですね。
特に昔の人はなかなか感情を表現するのが苦手ですから、ケンカと言うコミュニケーション方法を“無意識に”選択してしまうことは少なくないようです。

もちろん、実際に離婚してしまった両親もいると思うんですが、子供の目線で見ていた世界と現実とは違っている場合もある、という例として捉えてみてください。

特に子供時代のトラウマ(傷ついた経験)は、その経験をした時点で時計の針が止まってしまっていることも少なくありません。
だから、両親のケンカを肌で感じていた子供時代と、今の大人になったあなたでは見方を変えることも十分可能なはずです。

また、大人のあなたが改めて両親とコミュニケーションしてみることもできるんですね。
例えば、カウンセリングの中でこうしたテーマを扱うと、ある程度癒しが進んだ時点で、「その子ども時代にあなたが経験した思いをお母さんにお話してみませんか?」と提案することがあります。
少し両親に対する気持ちが変わり始めた頃がポイントなのですが、そのチャレンジによって、親御さんとの距離感が一気に縮まる(まるで友人のようになる)ことも多いのです。

●勇気を持って一歩前に

もし、ここまで読んでこられて、どこか感じるポイントがあるとしたら、あなたも平和主義者なのかもしれません。
だとしたら、あなたは今現在、誰かにまだ言えていない不満や怒りを持っている最中ではないでしょうか。
でも、そうと気付いても実際にその相手に向かってコミュニケーションするのはとても難しいことだと思うんですね。

平和主義者は完ぺきにやろうとする傾向があるので、すぐにうまく行かなくても、それが当然と思って向き合ってみる必要があります。
まるで初めて自転車に乗ったときを思い出すように、少しずつ練習していきましょう。

そういう時に僕がよくお勧めする方法は、お手紙を書いてみること。
実際に文章にしてみることで、頭の中で考えていることを表現することがいかに難しいかを実感できますし、いい表現の練習になります。

このお手紙も最初は実際にその相手に渡す必要はありません。
まずは下書きのようなつもりで書いてみるといいでしょう。
その後に相手に渡す手紙をしたためてみます。
これで緊張感は一気に増すはず。

手紙を書くという行為は、直接的ではないものの、相手と向き合う効果があるんです。
カウンセリングの中でも、相手を思い浮かべながらコミュニケーションするセラピーがありますが、現実的に相手と向き合わなくとも、手紙やイメージを使うことで同じ効果が期待できるのです。
そうして、相手と向き合ってみると、言葉にならない感情や、思っても見なかった気持ちが溢れてきて心が開かれていくことに気付けると思います。

実はこうして感情を解放する、オープンにすることで、あなたの中の生命力が少しずつ蘇ってくるのです。
平和主義者になってしまうと、怒りだけでなく、喜びや楽しさなど、ポジティブな感情表現も抑えるようになってしまうことが少なくありません。
だから、勇気を持ってその相手と向き合えた分、その成功・不成功の如何に関わらず、より解放的な気分を味わえるようになるんです。

●本当は人が好き、人を愛したい、その気持ちに気付こう!

そして、先ほど触れたように平和主義者になるくらいですから、人のことが本当は大好きなんですね。
そのことは思い切り胸を張っていいことです。
「私は、人が、好きなんだ!人を愛したいんだ!」
と堂々としてみると、更に次のステップに自然と進めるようになります。

それは、もっと人間を好きになる、愛する、ということ。
そうすれば、本当の平和のために、時には戦える強さが得られるようになります。
無価値感を抜け出す秘訣の一つは、その自分自身が持っている愛の強さを知ること、受け入れること。
だから、あなたが感情を抑えるために使っている力を少しでも誰かを愛する方向に差し向けてみると、大きく流れを変えることができます。

そのためにも、先ほどのお手紙を書く際も「相手のために、その人のために」という思いを強く持ってやってみてください。

実際のコミュニケーションではこちらの善意が悪意として伝わってしまうことも少なからずあるものです。
でも、それを怖れるのではなく、それならそれでもいいと思えるくらい愛することを選択できると、さらに広い心、本当の寛容さを身に付けることができます。
そこでは多少敵を作ってしまうかもしれませんが、同時に本当の味方もきっと手に入ります。
そんな自分を良くやった!と賞賛してくれる仲間がきっと生まれることでしょう。

焦らず、結果を求めず、心を解放し続けることをテーマに、まずは一歩踏み出してみませんか?

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