傷ついた男性性かもたらすもの(2)~正しさの争い~

傷ついた心を守るために壁を作った後は、その壁を防衛するのが次の段階です。

そこで私たちは、自らが作り上げた“正しさ”という盾を使って周りからの批判や攻撃をかわそうとするのです。すなわち、「私は間違っていない。私が正しい。」と自らを正当化することにより、周りを黙らせようと力技に出るわけです。しかし、これはかえって対立を生み、ますます孤立が深まることは否めません。これもまた、“正しい”方法とは言えないのです。

●正しさの争い

傷ついた男性性は、その身を守るために鎧で身を固め、誰も心の中に踏み入れさせません。
そのときの具体的な行動が“正しさの争い”です。

自立していくと、私たちは「何が喜びか?何が幸せか?」という感情・感覚的な基準から、「どちらが正しいか?どちらが良いか?」という思考的・理性的な基準へと物事の見方を変化させていきます。

そのときに「こうすべき」や「こうしてはいけない」といって義務・禁止のルールを持ったり、「自分は正しい、お前が間違っている」という論理体系を築くために“哲学的命題”に取り組むようになったりします。

自立のプロセスでは感情を切って、意志や理性の力で生きようとするので、どうしても思考的にならざるをえないんですね。
気持ちは無視し、どうすべきかで行動する“ロボット化”がここでは進展していきます。

そのとき、壁の中の心の傷を守るためには、より強固な論理体系を築かなければならず、よって常に「俺は正しい」「間違ってるのはあなたよ」と言った姿勢を採り続けるようになります。

たとえば、「相手の感情に訴えて売り上げをあげようとする」従来のやり方を“間違っている”と批判し、「分析的に効率的に売れ筋商品を大量に並べる」やり方が“正しい”と主張する2代目の若社長がいたとします。
彼は先代である父親のやり方を否定し、自分のやり方が正しいことを主張していきます。
そして、そのためにはコンサルティング会社からの進言や自分なりに解釈した経済情勢を盾に論理的に従来のやり方を改めさせようとするのです。
そして、自分が正しいことを証明しようとするのです。

こうすることで「2代目は頼りない」「親のすねかじりでろくな成果をあげられない」「偉大なお父さんの後を彼がちゃんと継げるのかね?」などといった批判を避けようとするのです。

もちろん、そうして会社の業績を上げ、社会に貢献できる企業へと成長させる素晴らしい経営者もいらっしゃいます。
しかし、その批判を交わすことに注力しすぎると、自分を身を守ることにばかりエネルギーを割くこととなり、当然ですが、うまく行きませんよね。

自分の正しさを主張し、それを貫くために強引な手段(無計画なリストラとか新規事業への進出とか撤退など)に訴え、自らの正しさを証明するかのような行動に出ることもあります。(これを特に“力の証明”と言います。)

そうすると、人心は若社長の下を離れ、ますます孤独感が強まっていくかもしれません。
しかし、それでも“心の壁”は守られ、その内側の傷ついた自分を守る目的は果たしていると言えるでしょう。
だから、周りの情勢は悪化し、時には何とかしようと試みるのに、無意識的な自己防衛によってその試みが妨げられると言う矛盾も生じるのです。

ゆえに、このパターンは分かっていても、なかなか手放すことができず、“暴君”となった社長が孤立無援の上、株主からNoを突きつけられ退陣することも少なくありません。

一時的な“勝ち”は収め、自らの正しさを証明しようと突っ走った結果、最終的にはその地位を追われることになるのです。
それは必死に守ってきた心の壁が打ち砕かれ、今まで以上に深い傷を負う瞬間とも言えます。
ここで先が見えなくなり、自死を考える人も少なくありません。

でも、真実はまったく逆で、その壁を崩壊させるのは、無意識がその傷を癒すために起こした善意のできごとなのです。
壁に覆われ、孤独な時代を手放して、つながりと親密感を感じ、そして、愛をもってその傷を癒すことを目的に、こうした事件が起こるのです。
まさに、一皮剥いて成長するために、無意識が企画したものなのです。

また、パートナーシップにおいても、けんかの元になるのはたいてい、この「正しさ」ではないでしょうか?
何か意見が衝突したときに、お互いが自分の正しさを主張します。そして、何も言えなくなった方が負けのような雰囲気を作ってしまうこともあるでしょう。
そうして、正しさを証明し、“勝つ”ことで、この壁を守ろうとするのです。

ところが、けんかに勝っても喜びは感じにくいと思うのです。
自分が勝ちならば、パートナーは負けです。
パートナーシップは“イコール”ですから、パートナーが負けということは、自分自身も負けということになります。とても後味が悪いのです。

そこでは「本音」が大切。
正しさを手放して、幸せを選ぶために、心を開くことが求められます。
心の痛みから壁を作ってきたのですが、パートナーを信頼し、自ら心を開くことが解決の秘訣です。
そのとき与えられるものは、今まで味わったことがないほどの親密感や喜び、つながり、そして、愛情なのです。

さて、こうした正しさの争いは別の角度から見ると「権威との葛藤」と表現することができます。
傷ついた男性性のもっとも象徴的な問題のひとつを次回ご紹介したいと思います。

 

>>『傷ついた男性性かもたらすもの(3)~権威との葛藤~』につづく

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