一冊の雑誌が、私にもたらしたもの

今年の春から秋にかけての半年間、NHKの朝の連続ドラマは「とと姉ちゃん」で、雑誌「あなたの暮し」を刊行した女性の物語でした。
私はこのドラマをずっと見続けたわけではありませんが、この雑誌のモデルが「暮しの手帖」と聞いて、とても懐かしい思いに駆られました。
「暮しの手帖」は長い間、母が定期購読していた雑誌でした。
昭和30年代あたりからの本が、我が家の本棚に並んでいたのを覚えています。
母の読んでいた雑誌ですから、その頃小学生だった私には何の興味もなかったのですが、ふとしたことから私も読むようになりました。
それは小学校4年生の冬休み。
私は元々扁桃腺が弱くて風邪を引くとすぐに高熱を出していたので、冬休みの間に扁桃腺の手術をすることになりました。
「クリスマス前に手術すれば、お正月は家で過ごせるよ。」
そう言われていました。
私はやんちゃな子どもだったので、しょっちゅう叱られていましたが、入院なんてすると急に母が優しく接してくれたので、それは何だか嬉しく感じました。
普段は「勉強できんようになるから、マンガは読んだらあかん。」と言われていましたが、入院中は”少女フレンド”だとか”マーガレット””りぼん”など大好きな少女マンガをいろいろ買ってくれたものでした。
ところが、だんだん飽きてくるんですよね。
『もう、これも読んだしあれも読んだ、つまんないな~!』
ふと、サイドテーブルを見ると付き添いの母が家から持ってきていた「暮しの手帖」がありました。
『大人の雑誌って、何が書いてあるんやろ?』
好奇心に駆られて、ペラペラとめくってみました。
日々の暮しに必要な、さまざまな商品のテストを重ねて、徹底的に調べ、検証していくことで有名な雑誌ですが、その頃の私はそんなことなど知りません。
その時見た特集記事は”火事”でした。
おりしも季節は、火事の多発する冬。
何と、家一軒を燃やして実験し、家庭で火が出た時の対処法について、こと細かく書いてありました。
子ども心に、食い入るように見てしまいました。
『ずごいなぁ、こんなこと実験してるんや~。』
このコラムを書くに当たって、本当にそんな記事が載っていたのか調べてみました。
もしかしたら私の記憶違いかもしれませんから。
すると、確かに昭和41年発売の第87号に「火事をテストする」というタイトルで載っていました。
子どもの時の記憶って、すごいですね。
それ以来、私はすっかり「暮しの手帖」のファンになってしまいました。
その後もずっと、我が家ではこの雑誌を購読していましたが、そこに書かれていることは集約すれば【日々の暮しの大切さ】ということに尽きるのではないかと思うのです。
当たり前の日常を大切にすることは、自分を大切にすることにつながります。
自分を大切にする人は、自分以外の人をも大切に出来ます。
先日、本当に久しぶりに最新号を手にしてみました。
表紙を開くと、創刊号から変わることなく書かれている一文があります。
「これは あなたの手帖です
 いろいろのことが ここには書きつけてある
 この中の どれか 一つ二つは
 すぐ今日 あなたの暮しに役立ち
 せめて どれか もう一つ二つは
 すぐには役に立たないように見えても
 やがて こころの底ふかく沈んで
 いつか あなたの暮し方を変えてしまう
 そんなふうな
 これは あなたの暮しの手帖です 」
天才編集者と呼ばれた花森安治氏の言葉です。
豊かな暮しとは、豪邸に住んでセレブな暮らしをすることだけを言うのではなく、日常のホンの小さなことにスポットを当てて、大きく喜べることではないのかな?
と、今の私が思うのは、この雑誌の影響が少なからずあるなと改めて感じます。
長年愛読してきた雑誌でしたが、阪神大震災の時に自宅が全壊し、取り壊さざるを得なくなった時、「暮しの手帖」も処分してしまいました。
それ以来、たまに手にする程度になってしまいましたが、私の日々の暮らしの中に、【こころの底ふかく沈んだ】考え方は生かされているようです。
人でも物でも、長く関わってきたものには、大きな意味と影響力がある・・・
私はそう、思っています。
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この記事を書いたカウンセラー

About Author

1957年生まれのシニア世代。 自身の豊富な人生経験を生かした、自分らしく生きていくためのサポートが好評を得る。 得意ジャンルは、対人関係・自己啓発・恋愛。 “何かを始めるのに遅すぎることはない”の言葉通り、いくつになっても新しい人生を切り開いていけることを、身をもって実践している。