積極的に待つ ~園長先生がくれた言葉~

最近、うちの息子は、看板やテレビに出てくる「単語」を読むことがマイブームです。
「あ、今の字、なんて読むの?」
「『大阪』って、書いてあったで!!」
「これ、『ハンバーグ』って書いてあるんやろ?」
文字を読む度、自慢そうな顔をします。
今まで、どんなにすすめても手に取ろうとしなかった「絵本」を手にして、時々つまりながら、自慢げに読んでくれたりもします。
息子は小学校3年生。
文字を読んだり、書いたりするのが苦手な子どもです。
原因はいろいろあるようですが、(見え方が違う、記憶するときに使う脳の場所が違う・・等々)、同じ学年の子どもに比べると、発達がゆっくりしているみたいです。
文字の読み書きが苦手なので、足し算や引き算はできても、文章題はちんぷんかんぷん。会話は普通にできるので、まさか、ひらがなをたどたどしく読んでいるとは思ってもらえず、「そこに書いているでしょ!」と大人に叱られることも何度もありました。
小学生とはいえ、プライドがありますから「ボク、字、まだ、読めないんです」とも言い返せず、家に帰ってきてからしょんぼりしているときもあります。
息子が保育園の頃、周りの子どもたちが、字を覚え、自慢そうに読み上げるのを目にする度に、わたしは、息子の将来が不安になりました。
「この子、小学校に入って、みんなと一緒にやっていけるのかしら?」
「なんとかしなくっちゃ」と焦れば焦るほど、息子は、「読む」ことを嫌がるようになっていったりもしました。
夫は、そんなわたしをみて「焦っちゃダメだよ」「心配しすぎだよ」と言ってくれましたが、その頃のわたしは、いつも
「母親が子どもを心配するのは、当たり前のことじゃない!!」
「この子のことがかわいいから、何かあったらどうしようって不安にもなるし、心配もするのよ!!」
そう言って、彼の言葉に耳を貸すこともありませんでした。
読めないからっていじめられたらどうしよう?
できないって思い込んで自信をなくしてしまったらどうしよう?
どうしよう? どうしよう? どうしよう・・・・
焦ってばかりのわたしの姿は周りから見ていてもわかったのでしょう。
卒園を控えたある日、保育園の園長先生に声をかけられました。
「不安なのは、息子さんじゃなくて、お母さんのほうね」
「大丈夫よ。あの子は誰よりも優しくて強い子。保育園で1日を過ごしていれば、できないといって友達にバカにされることもあるけれど、あの子は一度だって、暴力をふるったことはありませんでした。
ちゃんと、言葉で『そんなこと言われたら、嫌な気持ちがする。悲しくなる。だから、言わんといて』って伝えることができていたのよ。できなくて、自信をなくして、やらなくなるときもあるけれど、「やりたい!」気持ちを持ち続けてるから、できるようになったら、いつも、もう一回チャレンジしてきてたよ。あの子のペースが、少し他のお友達と違っているだけ・・・。だからね、お母さん。わたしたちは、積極的に待ってあげましょう。あの子が「自分から『やりたい』」と思う瞬間を見逃さないようにね。」 
「積極的に待つ」
いい言葉だな、と思いました。
「待つ」ということは、自分からは特に行動しないので、「何もしない」ことのようにも感じてしまったりもします。
相手に対して何もしてあげられなくて自分がとても無力な存在のように感じられたり、時には、相手を見捨てるような気持ちになることもあるかもしれません。でも、そうじゃないんだなと、園長先生の言葉を聞いて思ったのです。
目に見える行動は何もしていなくても、いつも見守って、気にかけていること、そして、「ここいちばん!!」というときには、声をかけたり、一緒に喜んだり。認めてあげたり・・そんな反応を返すこと
「待つ」ということはそういうことなんですよね。
「積極的に待つ」とは、「愛」と「信頼」そのものなのかもしれません。
いじめられて帰ってきた息子にどうしてあげたらいいのか?
できなくて自信をなくした息子をどう扱っていいのか?
どうすればいいのかわからなくて、自信がなかったのは「わたし」でした。
何かが起こったら、わたしは、息子を助けられない、わたしにはそんな力はない・・そんなふうに思っていたのです。
そんなわたしに、園長先生は、「あなたの息子はあなたが思っている以上に強いのよ。小さくても、自分の人生を自分の足で生きていこうとしているのよ。あなたの仕事は『助け』ことじゃなく、『信じて、待って、認める』」ことなのよ」そう教えてくれたのだと思います。
小学校に入った息子は、予想通り、文字の読み書きが苦手なことでずいぶんと苦労はしていますが、それでも、「勉強がいやだ」とは一度も言ったことがありません。できないことが多い分、できた時の喜びは人一倍に感じるみたいで、ちょっとしたことでも、うまくできたことがあると家に帰ってきてから自慢します。
最近では、理科で習ったあおむしの成長の仕方を事細かに話してくれたりもします。
「あんた、なんでそんなに詳しいの?」と聞くと、「育てたから」とVサイン。
確かに、あおむしを育てるのは、読み書き・・なんてあんまり関係ないですものね。
国語の教科書には見向きもしない息子ですが、男友達の間で流行っているゲームの話題についていけないのはいやなのか、ゲーム画面に出てくる文章を読みたいと思ったのでしょう。今年の初め頃から、ゲーム機を片手に「こ・こ・は・・・」と自分で読もうとし始めました。
そんなことをしているうちに、「○○に行くと・・」と時折、すらすらっと読む時が出てきて・・・・
どんなにがんばっても、「ことば」として読めずにいた息子をみていた時間が長かった分、「すごいやん!!!いつの間にそんなの読めるようになったの?」と驚きつつ、大喜びするわたしを横目に、
「これくらい読めるって・・。もっと読んだろか?」と照れくさそうに、でも、少し偉そうに言う息子。 その自信に満ちた顔を見て、「おやばかだなぁ・・」と思いつつも、「この子すごいわ~」と勝手に思うわたしたち夫婦。
子どもの成長を「待っている」と、子どものちょっとした変化に気づいただけで、なんだかうれしくなります。
「できた!」という喜びを子どもと共有することもできます。
そして「待った時間」が長いほど、その喜びは大きくなるようです。
「積極的に待つ」
園長先生の言葉を思い出しながら、今日も息子と「知ってる言葉探し」を楽しんでいる、わたしたち家族なのです。
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About Author

夫婦関係や子育て、対人関係、仕事、障害児の家族の問題など幅広いジャンルを扱う。特に「ずっと一人で頑張ってきた人が『より楽によりよい人生を選択できるようになるサポート』が好評である。 お客様から「無理のない提案で確実に変化できた」「会うと元気になる」等の感想が多く寄せられている。2024/1/1より休会中

2件のコメント

  1. はじめまして
    記事を読んで、ぼろぼろ泣いてしまいました。
    息子さんの姿が、わたしの主人に重なって見えたからです。
    主人は、私を大切にしたいと心から願いながらも、ほかの女性を求めてしまいます。
    何度も何度も、そんな自分と向き合い、私だけを大切にしようと、挑戦してくれています。
    何度目かの発覚のとき、私は主人の心の痛みを感じて、主人と自分のために泣きました。
    でも一抹の不安のようなものが消えませんでした。
    また、この問題に二人で向かっていかなくちゃいけない…
    その苦しみに耐えられるかな?
    頑張れるかな?
    どこか不安がぬぐいきれませんでした。
    でも、記事を読んで、主人は確かに、心の傷を抱えているかもしれないけれど
    そして私も、自分の傷を痛い、痛い、と意識してばかりかもしれないけれど
    主人は、私を愛してくれているからこそ、何度も何度も、補助輪なしの自転車、苦手な文字を読むこと…それらに挑戦し続けてくれているのだと気がつきました。
    主人は何度も転ぶかもしれません。
    でも、私を笑顔にしたい、幸せにしたい、という願いのために、何度でも傷だらけの心の痛みを抱えながら、擦りむけた膝小僧のまま挑戦し続けてくれているのですね。
    『積極的に待つ』
    という言葉に、わたしもとても励まされました。
    彼と、わたしの痛みだけを見るのではなく、わたしも、彼と、そして自分の強さを見てあげたい、と思いました。
    みんなと同じじゃなくたって。
    みんなが出来ていることかもしれなくたって。
    出来ないことが、かっこ悪いのでも
    情けないのでもないのだ、と胸に沁みました。
    主人の擦りむけた膝に、出来なくて、自己嫌悪してしまう心に。
    いつだって、元気な笑顔と手で、ガーゼを張って上げられるように、まずは自分の痛みを手当てしてあげたいと思います。
    素敵な記事をありがとうございました!

  2. ricoさんへ
    コメントありがとうございます
    お返事、遅くなってしまって申し訳ありません
    コメントを読ませていただいて、ricoさんのご主人への愛の強さに、心が温かくなりました
    また、本当に優しくてお強い方だなぁとも思いました
    待つのは忍耐のいることです
    待ち続けていると、疲れてしまったり、投げ出したくなってしまうこともあるかもしれません
    でも、ricoさんの愛はきっと届くと思うのです
    人なのですから、不安になることも、疲れてしまうこともあると思います
    そんな時には、わたしたちカウンセラーをあてにしてみてくださいね
    ricoさんのしあわせを心よりお祈りしています
    ありがとうございました
    那賀まき